プロ野球の観客数はなぜ過去最多を更新したのか? 野球&経済の〝二刀流〟山田幸美アナに聞く
今シーズンのプロ野球の観客動員数はセ・パ両リーグ合わせて2668万1715人で過去最多を更新! いったいどうして増えたのか? 流通ウォッチャー・渡辺広明氏と「日経モーニングプラスFT」(BSテレ東)でキャスターを務め、「プロ野球ニュース」(フジテレビONE)にも10年出演中の山田幸美アナウンサーがスポーツマーケティング対談でその謎を解き明かした。 【グラフ】過去8年のプロ野球観客数の推移 渡辺広明(以下渡辺)こうして観客動員数の推移をグラフで見ると、やっぱりコロナ禍の影響は大きかったね。2020年だけは交流戦中止で試合数が例年(858試合)より138試合少なかったのもあるけど、よく戻ったな~という印象です。 山田幸美(以下山田)そうですね。私が気になったのは22年です。来場制限が撤廃されたのに観客が戻り切らなかったのは仕事終わりに野球を見に行くファンの行動変容があったのではないでしょうか? 特にDeNAに注目すると、22年は3年ぶりにCS出場を果たした良いシーズンだったのにもかかわらず、コロナ前の19年シーズンより20%少ない178万人でした。 渡辺 ハマスタ(横浜スタジアム)は東京五輪にあわせて6000席増設されたんじゃなかった? 山田 おっしゃる通りです。20年2月に増築と改修が終わって最大収容人数が3万4046人に増えたのに社会変化でファンが戻ってこなかったんです。そこで球団は観客数をV字回復させるために“2軸のイベント設計”を行ったそうです。ひとつは昔ながらのファンに球場観戦の醍醐味を再確認してもらう施策。23年には日本一に輝いた1998年シーズンのスローガン「GET THE FLAG」を冠にしたイベントを行い、球団OBがチームの歌を歌うなどしました。 渡辺 なるほど。今年、ドラゴンズ戦をご一緒したとき、試合後には「横濱漢祭 2024」(8月20~22日)をやってましたもんね! 角田信朗さんが出てきて花火が上がって、みんなで昇天ポーズして…(笑い)。 山田 楽しかったですね。もうひとつは野球観戦に縁がなかった方でも来場したくなるようなアプローチ。4回裏が終わると始まる「diana」対ファンのリレー対決は毎回すごい盛り上がりです。他球団でも有名キャラとのコラボやユニホーム配布を積極的に行って、プレー以外の飲食や入場の体験価値を上げています。 渡辺 その傾向は「2024年スポーツマーケティング基礎調査」(三菱UFJリサーチ&コンサルティングとマクロミルによる共同調査)にもはっきり出ているよね。観戦回数も増えているし、1回あたりのグッズ費や飲食費も伸びています。ハード面で言うと僕は昨年春に訪問したエスコンフィールドで感心したことがあるんです。 山田 え、何だろう? 私プライベートで全球場に行ってて、エスコンがまた行きたくなる球場ってことはわかるんですけど…渡辺さんの好きなサウナですか? 渡辺 じゃないです(笑い)。「七つ星横丁」というエリアがすごく北海道の人のためにつくられているんですよ。こうした施設をつくるとなると道外から来た観光客のために「北海道のいい店を集めよう」っていう発想になりがちだけど、試合日のほか土日祝も営業、地元の人が楽しめるように北海道初出店のお店を多くしたと。こうした地元密着はパ・リーグの強みになってるよね。 山田 エスコンのある北広島市は23年末で人口5万6900人でしたが、まだまだこれから発展しそうですね。パでは6球団すべてが10万人以上も観客数が増加。オリ姫もすっかり浸透しましたが、今年のオリ姫デーのコンセプトはミュージシャンで、ミュージシャンになりきった選手のグッズを求めて500人もの行列ができたそうです。“推し活”の盛り上がりがプロ野球にもやってきたと実感します。 渡辺 そう。球団のSNS戦略も洗練されてきたよね。僕なんかは練習がインスタライブで中継されてるとつい見ちゃう。ただショート動画に慣れた若者にとってはまだまだ試合時間が長いという声もあって、MLBでは23年から導入されたピッチクロック(投手はランナーがいない場合は15秒、いる場合は18秒以内に投球動作に入らなければいけない)についてはどう思います? 僕は今後必要になると思ってる派。 山田「試合が長い」って声は確かに聞きますね。でも私は野球が“間”のスポーツだと思ってるし、バッテリーが考えているのを見るのも好きなので個人的には悲しい。さっき言った“推し活”で球場に来ているファンの方なんかはもっと長く(球場に)いたいかもしれないし、その辺はきちんと取材して声を拾わないといけませんね。 渡辺 野球は人気ナンバーワンのスポーツなんだから進化する良さと変わらない良さを共存させてほしい。そして我がドラゴンズは来年こそ…。 山田 渡辺さん、もう取材の時間が終わりだそうです。私も次の仕事が…。 渡辺 いやいや、最後にこれだけ言わせて。球団関係者から聞いた話なんだけど、今年最下位だった中日の観客動員がいいのは高橋宏斗、岡林勇希、石川昂弥といった少年野球から地元で野球をしてた地元のスターがいるからなんだって。(めちゃくちゃ長いので以下略) 【山田アナと野球のイイ話】広島ホームテレビ時代に野球と本格的にかかわることになり、ホームの試合はカープ番としてほぼ球場で観戦。番組では北別府学さんとタッグを組んだ。「最初は囲み取材で記者さんが聞いてることが全然理解できなくて、これじゃダメだと思って緒方孝市コーチ(当時)に毎日必ずひとつ質問するようにしたんです。難しい技術を聞くより自分しか聞けない質問を心がけていたら『そんなこと見てたんだね』って褒めてくださって。野球現場で認められたような気がしてうれしかったです」 全球団のファンだが“推し”は引退した黒田博樹投手。「ヤンキースにいらっしゃったときは全登板、スコアつけながらテレビで見てたと思います(笑い)。全試合見てると『あ、今日のツーシームはいつもよりいいな』とか球威までわかるようになるんです!」 現在は経済と野球の二刀流キャスターを目指して奮闘中。「野球も間と流れがあって経済に似ているところがあるんです。調べれば調べるほど楽しいです」 ☆やまだ・ゆきみ 1984年生まれ。静岡県南伊豆町出身。明治学院大学卒業後、アナウンサーとしてテレビユー福島、広島ホームテレビで勤務。現在はBSテレ東「日経モーニングプラスFT」月、火、木MCほか、フジテレビONE「プロ野球ニュース」の進行も務める。 ☆わたなべ・ひろあき 1967年生まれ。静岡県浜松市出身。「やらまいかマーケティング」代表取締役社長。大学卒業後、ローソンに22年間勤務。店長を経て、コンビニバイヤーとしてさまざまな商品カテゴリーを担当し、約760品の商品開発にも携わる。フジテレビ「Live News α」コメンテーター。Tokyofm「ビジトピ」パーソナリティ。
森中航