名将ハリルホジッチも苦悩したラマダンの罠。アルジェリア代表が直面した「サッカーか宗教か?」問題
ドイツ戦前にラマダンを行うのか、それとも延期するのか
ハリルホジッチは自分もイスラム教の信奉者だったので、この繊細な問題への対処方法はよく心得ていた。しかし例によって激烈なアルジェリアのマスコミが動き出し、サッカー選手も厳格にイスラムの教えを守るよう要求した。もっとも保守的なグループは、サッカー選手はあらゆることよりも優先してラマダンを実践すべきだと要求し、国内に議論を引き起こした。 問題が大きくなり始めたが、その要求に根拠はなかった。というのも、コーランは「断食は健康状態がよく、出身国にいる場合には行わなければならない」と明確に述べているからだ。これこそが問題を解く鍵となった。仕事のためにせよ、公式任務のためにせよ、イスラム教信者が国外にいる時は、ラマダンを実践するか数日延長するかは個人の判断に委ねられるのだ。 したがって、ドイツ戦に先だってラマダンを行うのか、それとも延期をするのか、その決断はアルジェリア代表の各選手によるものとなった。 他の代表チームの中には、ラマダンの断食について自分の決断をすでに公にしていた選手もいた。出自がトルコにあるドイツ人のメスト・エジルやセネガル出身のフランス人であるバカリ・サニャは、コーランの言葉を拠り所に、宗教的義務の開始をチームが敗退するか、もしくはワールドカップの期間が終了するまで延期することに決めた。一方、アルジェリアの偉大なる主将であるブーゲッラは検討するとして判断を保留にした。絶食は大きな問題ではなかったが何時間も水分補給ができないのはリスクが高かった。 時間の経過とともにラマダンの断食騒動は大きくなり、ハリルホジッチの苛立ちを助長させた。アルジェリア史上もっとも重要な試合を前にした記者会見でボスニア人監督は爆発した。その場で声を荒げてはっきりさせておかねばならなかった。「私はラマダンの話をするためにここにいるのではない。これまでに監督を務めたことのある代表チームにもイスラム教徒はいたし、私自身もイスラム教徒だ。だからこの件をどう扱うかよくわかっている。他人の助言などはいらない。ラマダンは信仰の問題だ。つまり個人の問題ということになる。各自が自分にとって良かれと思うようにすればよいのだ」と論じた。