名将ハリルホジッチも苦悩したラマダンの罠。アルジェリア代表が直面した「サッカーか宗教か?」問題
窮地に立つ母国アルジェリアを救うのは…
2014年のワールドカップ・ブラジル大会出場にあたり、アルジェリア代表が一番に心していたのが、4年前の南アフリカ大会での0勝2敗1分けの不甲斐ない成績を繰り返さないことだ。 ハリルホジッチは、汚名返上の機会に恵まれることはそうそうあるものではないとわかっていた。ワールドカップで戦うにあたり、監督は今や全国民から信頼を置かれていた。だが、初戦は負けるべくして負けた。アルジェリアはフェグリのシュートで先制したが、ベルギーの攻撃に手を焼き、フェライニとメルテンスにゴールを決められた。第2戦は韓国に4-2で圧勝した。この試合でアルジェリア代表は、最高の才能を持った2人のサッカー選手が共作した素晴らしい芸術作品を披露した。フェグリとブラヒミの見事な連係プレーから魔法のようなゴールが生まれたのだ。 グループリーグの第3戦は、ロシアを相手にどちらがベスト16に進出するかを決める試合となった。カペッロ監督率いるロシアは最初からアクセル全開で猛攻を仕かけ、ライス・エンボリが守るゴールをしつこく狙った。そして誰よりも高く飛んだココリンがヘディングシュートを決めてロシアが先制した。ハリルホジッチとその若者たちは窮地に陥った。 アルジェリアには偉大な選手が何人かいたが、そのうちの1人は他の誰よりも国民から愛されていた。この生粋のアルジェリア人の点取り屋は、相手ペナルティエリア内に侵入すればジャッカルとなって、祖国の誇りを守るためならば体を危険にさらすようなプレーも厭わない。公式試合でアルジェリア国歌が演奏されると、アルジェ出身のスリマニはいつも声を限りに歌う。窮地に立つ母国アルジェリアを救うのは、この男以外にありえなかった。スリマニは1点リードされたままで後半に入ると、セットプレーからのボールを打点の高いヘディングでロシアゴールに押し込み同点とした。“砂漠のキツネ”は勝ち点を4に伸ばしてグループリーグを通過した。 すべてが順調に進んでいるように見えた。サッカーの代表チームが史上初の決勝トーナメント進出を果たしたことに国民は満足していた。すべての事柄が順調に整っているように思われたが、ドイツとの歴史的な試合を2日後に控え調整を重ねていたアルジェリアのサッカー代表チームにとっては、頭の痛い問題が内在していた。試合の日がラマダンの期間の初めと重なったのだ[訳注:2014年のラマダンは6月28日~7月28日。アルジェリア・ドイツ戦は6月30日]。