全国紙が一部地域で発行休止に。坂口孝則が語る「メディア企業の生き残る術」
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「新聞の衰退」について。 * * * 8月10日の産経新聞社の発表によれば、富山県内での産経新聞、サンケイスポーツ、夕刊フジの発行が9月いっぱいで休止となる。中止でなく「休」止だから含みのある表現だが、おそらく読者減で採算があわず、経営的には妥当な決断なのだろう。 印象深いのは、私がそのニュースを見たときに、妻の実家への帰省で富山県にいたことだ。これは大ニュースと思った。 しかし「いやあ、産経新聞が買えなくなるみたいですね」と地元民の集まりで質問してみると「はあ、産経新聞ですか」と反応がよろしくない。「読んだことないな」「ネットじゃダメなんですか?」「地元紙を取ってるんですが、どうせ読んでないし」だってさ(笑)。偽らざる本音だろう。 どうも産経新聞は、富山県内では数百部の発行にとどまっていたらしい。SNSではちょっとしたインフルエンサーのフォロワー(本人ではなく、だ)でさえポストの閲覧数は数百を超える。広く知らせたいなら新聞に出るよりも、SNSで紹介してもらったほうがいいというわけか。 そして、ある方が教えてくれた。「富山県民はね、北日本新聞を読んでいるけど、購読料が7月から3380円から4000円になったの。でも読売新聞は購読料が変わっていないから、自分は北日本をやめて読売に替えました」。 私は苦笑して「中身じゃないの?」と言ったら「読んだら違いがわかるかもしれませんね」と。なんとポストモダン的だろう。 日本では、新聞の主張や紙面内容にかかわらず、付き合いで購読したり、数百円の違いで購読をやめたりする。新聞社の思想的立場も知らない。そもそも読んでいないのだ。 既存メディアは不動産収入でなんとか成り立っている。しかし、これは経営的にはほとんど意味がない。 というのも、法人が不動産を取得し、貸し出して利回りを得るとすると、年利は5%程度にしかならない。そして法人税を課されるため、最終的な利益はずっと低くなる。上場企業であれば、「資本コスト」といわれる株主(出資者)の期待リターンを下回るのが通常だ。 しかもその利益は、本業のメディア事業の赤字補てんに使われる。よって理屈上は、株主からすればそのお金はメディア企業ではなく、不動産専業のデベロッパーに投資したほうがいい、ということになる。そもそもメディア事業のリターンがなければ投資の意味がない。 ......といったことをメディア人に語るのだが、理解してもらった記憶がない。「まあそりゃ、メディアの社会的意義を理解していないってことでしょ」と笑われる。それなら上場を廃止しろよ。生き残るためにもっと稼げよ。 ところで、私はだいぶ前からニューヨーク・タイムズ等の海外メディアの有料会員だ。ほとんどが署名記事で、一つひとつが濃く、かなり深い。えらく感心する。コラムニストも一流の方ばかりだ。日々の要約メールは練られている。英語で発信することで全世界中の読者を相手にしている。 きっと母集団を広げることなしに、これからのメディアは存続できない。いまや生成AIを使えば多言語に翻訳できる。お付き合いの購読者より未(いま)だ見ぬ新たな購読者への移行。メディアこそ挑戦しよう。日ごろから既存企業の経営難をバカにしてきたのだから。