「減塩生活」は60歳で卒業しないとマズい。食塩が少ないほど寿命が縮まると心得よ
なぜ60歳をすぎたら減塩NGなのか
若い人の腎臓は、ナトリウム貯留能がうまく働いているので、ナトリウム濃度は一定に保たれています。一方、高齢者の腎臓は加齢とともに働きが衰えてくるので、ナトリウム貯留能が低下し、尿から必要なナトリウムが出ていってしまう可能性があります。その結果、低ナトリウム血症を起こしやすくなるのです。 ここ数年、梅雨入り前から注意喚起されている熱中症も、同じメカニズムです。夏の暑い日、汗とともにナトリウムが排出され、一度に大量の水を飲むため、体内のナトリウム濃度が薄くなり、低ナトリウム血症と同じ症状を起こします。だから、熱中症対策として、塩分を含んだスポーツドリンクや、塩分が含まれる飴やタブレットなどを水と一緒にとることが推奨されています。 これまで「塩分は控えましょう」と言っていた医者が、このときばかりは「塩分をとって熱中症を防ぎましょう」と言い、いったいどっちなんだ、と戸惑った方もいるのではないでしょうか。私は、年齢を重ねるとともにナトリウム貯留能が低下することを考えて、60歳をすぎたら減塩をやめたほうがいいと思います。
食塩摂取量で死亡率が大きく変わる
高齢になれば、ほとんどの人が濃い味つけを好むようになります。その理由は、老化によって味覚が鈍くなるということのほかに、体の適応現象であると考えられます。腎臓のナトリウム貯留能の低下によって、ナトリウムが不足しやすくなっており、脳が濃い味を求めさせると考えられます。 さらに、動脈硬化が進んでいるから、濃い味を求めているということもあります。動脈硬化が進んだ血管で、酸素やブドウ糖を体中に届けるためには、血圧を高めにして血流を維持する必要があるからです。塩辛いものを体が欲し、血圧を上げているとも考えられます。そうしたなかで、無理な減塩をすることは、体の声に反し、正常な機能を保てなくなる可能性を高めていることにもなるのです。 尿から排出されたナトリウムと死亡率との関係を解析したカナダのマックマスター大学の17ヵ国10万人に及ぶ研究では、尿中のナトリウムが一日4~6gの人の死亡率が最も低いことがわかりました(図)。これは、食塩に換算すると一日10~15gに相当します。食塩は多すぎる害よりも、少なすぎるほうが体に悪く、食塩摂取量が10gより低くなればなるほど急カーブで死亡率が上がります。 とするとしたら、味気ないと感じている減塩生活なら、無理して続ける必要はありません。味のしっかりしたものを食べたいのなら、我慢しなくていいのです。
和田 秀樹(精神科医)