知られざる「日大」裏面史、続発する不祥事の深刻 「魔窟」に群がった政界黒幕から暴力団組長まで
特に、薬物問題発覚からアメフト部を「廃部」にするまでの、日大執行部の、迷走に迷走を重ねるさまや、「パニック」ともいえる学内の混乱ぶりは、関係者でなくとも目を覆うばかりだ。が、著者は〈颯爽と登場した理事長の林真理子は単なる神輿ではなく、実は迷走の元凶だったのではないだろうか〉としたうえで、こう断じるのだ。 問題は事件や不祥事が発覚したあとの組織のあり様である。わけても日本最大の高等教育機関である日大の首脳陣が、どのように薬物事件に向き合うか。そこに関心が集まるのは必然だった。しかし、日大は完全にその対応に失敗した。
■他の大学不祥事とは比べ物にならない深刻さ これまで、あまたの経済事件を取材し、JALやJR、そして首相官邸など、巨大組織の病理を描いてきた著者の判断だけに説得力が半端ではないが、著者はさらに、135年に及ぶ日大裏面史の取材を踏まえ、同大がおかれている現状を、以下のように分析する。 日大は古く古田重二良や田中英壽の時代から権力闘争を繰り返し、組織のまとまりを欠いてきた。それは林体制になって改善されるどころか、ますます酷くなっているというほかない。ことガバナンスという点でいえば、むしろ豪腕で知られた古田や田中時代のほうが機能してきたかもしれない。(中略)高等教育機関でこれほどガバナンスが働かない組織、首脳たちのお粗末ぶりは、他の大学不祥事とは比べ物にならないほど深刻だといえる。
この分析がいかに正鵠を射ているかは、薬物事件の後も、重量挙部や陸上部、スケート部の指導者らによる横領疑惑や、ラクビー部員による大麻問題など不祥事が相次いで発覚していることが証明している。さらには、薬物事件で明らかになった林執行部のお粗末な対応や、隠蔽体質に嫌気がさしたのか、日大では2024年度の入学志願数が過去に例を見ないほど、減少しているというのだ。 一言でいえば、そもそも彼女は、その「任にあらず」ということだったのだろう。本書が上梓された後も、現体制が続くようであれば、だ。残念ながら、この大学の未来を悲観せざるをえない。
(敬称略)
西岡 研介 :ノンフィクションライター