知られざる「日大」裏面史、続発する不祥事の深刻 「魔窟」に群がった政界黒幕から暴力団組長まで
さらに田中は、瀨在とたもとを分かった後も、自らの傀儡となる学部長らを総長選に担ぎ、2008年に理事長に就任。2013年には、総長を大学トップとする「総長制」自体を廃止し、「田中帝国」を完成させる。 そして、「帝王」となった田中は、私淑していた古田に倣うかのように、政官財から右翼、暴力団にいたる日本の地下水脈とつながり、巨大利権と化した田中帝国・日大には、さらに多くの有象無象が群がっていくのである。
著者は、古田と田中という、強烈な権力志向と、それに見合うだけの豪腕を兼ね備えた2人の「怪物」の軌跡をたどることによって、昭和から令和に至る日大の裏面史を活写していくのだが、その田中帝国は2021年、前述の通り、背任事件と脱税事件で崩壊する。 ■年商約300億「株式会社日大事業部」の実態 それらの事件の温床となったのが、田中の肝煎りで設立された「株式会社日大事業部」だった。著者は、事件後に設置された第三者委員会の調査報告書だけでなく、内部証言に基づき、この「鉛筆からロケットまで」を扱い、300億円近い年商を上げるといわれた組織の実態を明らかにしていく。
そして、その綿密な取材から導き出した結論の中で、日大と同様に、事業会社を擁し、多額の収入を得ている他の私立大学に対し、次のような警鐘を鳴らすのだ。 田中理事長体制下で噴き出した一連の事件は、長いあいだ私学に巣食ってきた大学と取引業者との利権構造をもあぶり出した。そこには、日大にとどまらず、日本の私立大学が抱えてきた共通の病が潜んでいる。 その田中が失脚し、日大から追放された翌年の2022年、第14代理事長に、同大芸術学部出身で、人気作家の林真理子が就いたことはご承知の通りだ。が、大学内外から刷新を期待されていた林執行部は、田中体制の一掃に拘泥するあまり、学内に新たな混乱を招き、ガバナンス機能を失い、迷走を始める。
それが露呈したのが2023年、警視庁が摘発した「日大アメフト部員による薬物事件」と、事件を受けて開かれた林理事長ら日大3首脳による「炎上会見」だった。 著者は、「事務局長会議議事録」などの内部資料や、前アメフト部監督、日大幹部職員ら関係者の証言に基づき、薬物問題が学内で浮上した段階から、事件化するまでの過程を丹念に追うことで、林執行部のガバナンス体制の欠如、それに伴う内部の混乱の様子を詳らかにしていく。