欧州危機再発の懸念、そのリスクを探る 金融アナリスト・久保田博幸
2015年の世界経済の行方を見る上で、欧州の動向が大きなポイントになる可能性があります。1月22日のECB政策理事会では量的緩和策の導入を決定しましたが、これは欧州でのデフレの懸念の強まりに対するものでした。ECBの指揮下で、ユーロ圏の各国中銀が3月から、国債を含めて毎月600億ユーロの資産を買い取り、それを来年の9月まで続け、買い取り総額は1兆ユーロを超す見通しです。今回のECBの量的緩和の背景には、原油価格の下落などにより、ユーロ圏の消費者物価指数が前年割れとなったことや、ユーロ圏の景気指標の悪化があります。 このECBの動きを事前に察知して、1月15日にスイス国立銀行は、スイス・フランの上昇を食い止めるために設定した対ユーロの為替レートの上限を撤廃しました。これは市場ではサプライズとなり、スイス・フランは急騰し、スイスの10年債利回りはマイナスとなりました。すでにドイツやフランス、イタリア、スペインなどユーロ圏の長期金利は軒並み過去最低を記録しています。この背景にはECBの量的緩和への期待もありましたが、ユーロ圏の物価の低迷も大きな要因となっていました。 欧州のリスクとしてまず意識すべきは、このデフレへの警戒とユーロ圏の景気の低迷です。ECBの量的緩和により通貨ユーロが思惑通りに下落したとしても、物価が上昇する保証はありません。原油価格の低迷が続けば、ECBに対してさらなる追加緩和を市場が要求してくる可能性もあります。今後の原油価格の動向を見る上では、低価格戦略を仕掛けているとされるサウジアラビアの動向も要注意ですが、アブドラ国王が死去したことで、これまでの戦略が継続されるのかどうかも注目されています。いまのところこれまでの戦略が継続されるとの見方が強いようです。 また、欧州のリスクを見る上で最も注意すべきはギリシャの動向です。ギリシャ議会は昨年12月29日に大統領を選出できなかったため、1月25日に総選挙が行われました。その結果、野党であった急進左派連合がサマラス首相率いる新民主主義党(ND)を破り勝利しました。緊縮財政に反対する急進左派連合が第1党となり、ギリシャのユーロ圏からの離脱の懸念が出てくることも予想されていましたが、ここにきて急進左派連合はギリシャのユーロ離脱には慎重な姿勢を見せています。今後はあらたなギリシャの政権がドイツなどと妥協点を探ることになります。 ECBは今回の量的緩和において、ギリシャが救済に伴うEUによる監視プログラムの下にとどまっていれば、7月以降にECBはギリシャ国債を購入できるとしました。ギリシャの政権が変わり、引き続きギリシャがユーロ諸国からの支援を得られるのかも注目材料となります。ギリシャがユーロ圏離脱のリスクを取る可能性は、以前に比べればそれほど高くはないものの、夏には救済資金が底をつき、何かしらのきっかけで離脱懸念が強まると、第二のギリシャ・ショックが発生する可能性はあります。