「京大VS吉田寮生」退去迫られた院生たちの絶望 老朽化を根拠にする大学、大学自治掲げる院生
「大学が出した『引き続き裁判所に主張を理解していただくために努める』というコメントは、本当に恥ずかしいと思います。理解を求める相手は裁判所ではなく、目の前にいる寮生や学生、教職員、市民ではないでしょうか。 改めて振り返ると、この5年間は本当に無益だったと思います。大学はこの間代替宿舎を提供し続けるために数億円を使っていると考えられます。 それだけのお金と時間があれば、老朽化の対策を進めることができたのではないでしょうか。裁判も、結局寮生に対する嫌がらせ・ハラスメントにしかなっていません」
■寮廃止の動きはほかの大学でも起きている 寮を廃止する動きは、全国のほかの大学でも起きている。2023年3月には、金沢大学の男子寮である泉学寮と、女子寮の白梅寮が廃止された。どちらも寄宿料が月額700円だった。 寮生は強く存続を求めていたが、大学側は3月31日までの寮からの退去と、電気・ガス・水道の供給を停止することを一方的に通告し、同日閉鎖した。 2022年10月には大学設置基準が改正され、大学の寄宿舎はこれまで「なるべく」備えるものとされてきたのが、「必要に応じて」設けるものと変更された。寮の廃止に拍車をかける改正と受け取ることもできる。
一方で、吉田寮裁判の一審判決は、「低廉な寄宿料で居住することのみが在寮契約の目的であったとは認められず、代替宿舎の提供をもって、本件建物についての在寮契約の目的が達成され終了したとはいえない」と、居住空間だけではない寮の価値を認めたものだ。寮生の裁判での闘いが、大学の寮のあり方を再考する機会を作っているのは間違いない。 大沼さんは博士課程に進学した4月以降も、引き続き裁判の事務局の役割を担っている。最後まで闘いながら、大学に問い続けていく考えだ。
■社会の広い文脈で考える必要 「吉田寮の存続を目指す取り組みはもちろんですが、それだけでなく、この取り組みを通じて、自分たちの置かれた状況をもっと社会の広い文脈で考えていくことも大事だと思っています。 昨今授業料の値上げも取り沙汰されていますが、なぜ学ぶことのお金を個人が負担することが当たり前とされてしまっているのでしょうか。なぜ自治というものが敵視されるのでしょうか。そういう問題は今の社会のあり方とつながっていることを、この間の活動の中で学びました。ただ吉田寮が残ればよいという話ではないと今は思っています。
大学が真に公共的な場所であるためには、話し合いで物事を決めていく自治によって運営され、多様な人々が集い、既存の社会を批判的に思考できる場であることは、重要なはずです。大学執行部の人たちには今やっていることの意味をもっと考えてほしいです」
田中 圭太郎 :ジャーナリスト・ライター