「京大VS吉田寮生」退去迫られた院生たちの絶望 老朽化を根拠にする大学、大学自治掲げる院生
被告の中には研究で忙しい日々を送る大学院生もいて、研究を続けていくうえででも、寮の存在は重要だという。 「9割方負けると思っていましたから、判決が出た瞬間は『勝った』と思ってびっくりしました。学生自治会が大学に勝つのはあまり前例がないでしょうから、画期的な判決だと思います。 もちろん、シビアな見方をすれば全面敗訴を免れただけで、こちらの主張が十分認められたわけではありません。とはいえ追い風が吹いたのは確かなので、これからが大事だと思っています」
判決についての感想を率直に語るのは、京都大学大学院教育学研究科の博士課程に在籍している大沼さん(仮名)だ。 被告の1人であり、裁判で弁護士とのやり取りや、寮自治会の意見の取りまとめなど、寮生側の事務局的な役割を務めている。 ■吉田寮への入寮で、奨学金借りるのをやめた 大沼さんが吉田寮に入寮したのは、文学部の3回生だった2017年4月だ。 実家は熊本県内の農家で、野菜や米が送られてくることはあったものの、基本的に仕送りはなかった。
入学後に京都大学独自の制度で学費の免除が認められたほか、日本学生支援機構(JASSO)から月5万1000円、地元自治体から月2万5000円を借り、家賃や食費などの生活費に充てていた。 もちろん、バイトをしなければ、民間のアパートで生活するには足りない金額だ。それに、奨学金はいずれも将来的に返済しなければならないものだ。大沼さんは寮費が安い吉田寮に入寮することで、奨学金を借りるのをやめることにした。
「奨学金は結局借金で、学部を卒業するまでに300万円近くになってしまいます。まず2回生が終わったタイミングで地元自治体の奨学金を辞退しました。吉田寮に入ったことで、奨学金と同じくらいだった、アパート代が浮くからです。 その後、JASSOの奨学金も4回生の夏でやめています。今冷静に振り返えれば、借りるだけ借りて手をつけないという方法もあったのかもしれませんが、当時の私にとっては借金の額が増えていくことへの拒否感というか、恐怖感もありました。