コロナ禍がもたらした経営環境の変化…休廃業のさらなる増加が見込まれる中、中小企業が「事業承継」においてとるべき対応とは?【公認会計士が徹底解説】
新型コロナウイルスの影響によって事業承継ニーズは変化しています。今回は、その変化の中で中小企業が事業承継の選択肢をどのように考えるべきか、税理士・公認会計士の岸田康雄氏が詳しく解説します。 【早見表】年金に頼らず「夫婦で100歳まで生きる」ための貯蓄額
事業承継を巡る現状
2019年の休廃業件数は、帝国DBの調査によれば、2万3,000件であった。休廃業した社長の平均年齢は71歳である。2020年の休廃業件数は、商工リサーチによれば、5万件に倍増すると推計されている。 今後は、倒産だけでなく、休廃業が増加する。(倒産:債務超過で事業を止めること、休廃業:資産超過で事業を止めること)コロナの影響で景気が悪化、先行きが不透明になり、高齢者の事業意欲が低下したからだ。 ( 後継者不在 + 業績不振 )→ コロナ = 休廃業 建設・建築・土木工事、小売店や飲食店の休廃業が多くなる。製造業のサプライチェーン(部品供給網、販売網)の休廃業は、大企業にも影響が大きい(私はパナソニックの「街のでんき屋さん」の事業承継を支援してきた)。 事業承継問題に直面する中小企業を単独で存続させようとする政策として、税制優遇をはじめ、実質無利子無担保の緊急融資や持続化補助金がある。 これは、中小企業の生産性の低さを抜本的に改善するものではないため、単なる延命策にすぎない。一時的に延命することができても、数年後に同様の問題が発生する可能性が高い。 コロナ問題は、中小企業の直面する経営環境に大きな変化をもたらした。それに対応するには、デジタル化するためのIT投資が必要だ。しかし、高齢者が経営する事業にはそれができない。資金力が不足すること、経営者にやる気がないことが理由だ。 生産性の低さを抜本的に改善する方法は、同業他社への事業譲渡によって、規模を拡大することだ。これが、日本経済全体に必要とされるものだ。
廃業してもよいが、事業譲渡を進めるべき
一般的に、「廃業」という言葉には、回避すべきもの、事業の終わりだという否定的イメージが伴う。「廃業」が法人(会社)の解散・清算のことを意味すると誤解されることも多い。 この点、「廃業」の正しい意味は、個人事業主または法人(会社)オーナーが運営主体の立場から退くことである。事業そのものを消滅させることではない。 経営者が引退すると同時に、価値ある経営資源を消滅させると、その廃業は失敗である。社会的損失が生じる。 しかし、個人事業主であれ、法人(会社)オーナーであれ、引退して事業活動を停止するのと同時に、価値ある経営資源を第三者に譲渡すれば、その廃業において社会的損失は発生しない。つまり、後継者や第三者へ事業承継することができれば、経営者の大量引退が発生しても、問題はないのだ。 近年、IT技術革新が急速に進み、AI・人工知能やロボットといった新技術を活用した経営効率化、生産性向上が求められている。これらのIT技術の導入は、中小企業にとって急務である。 しかし、多くの中小零細企業は、これらのIT技術を導入できるほどの資金力を持っていない※1。よって、経営効率化と生産性向上を実現するには、事業規模を拡大して資金力を強化なければいけない。 ここで簡単な例を考えてみよう。従業員10人の小規模企業が3社あり、それぞれ後継者に対する事業承継に成功する場合と、そのうち2社が廃業して、残りの1社に事業譲渡される場合である。 【ケース(1)従業員10人の会社3社が単独で生き残る】 【ケース(2)事業譲渡されて従業員30人の会社1社に統合される】 3社が単独で生き残るケースと3社が1社に統合されるケース、どちらの事業のほうが大きく成長できるであろうか。 3社が事業統合して、本社経費など間接コストの削減、広告宣伝費など営業コストの削減など経営効率化※2を行えば、資金を捻出することができる。その資金をIT技術の投資に充てることができれば、生産性が向上するはずだ。 結果として会社の数は減少するが、雇用の規模(30人)は減少しない。逆に生産性が向上する。わが国の中小企業に求められている事業承継は、このような方法ではないか。 後継者不在の問題について心配する必要はない、そもそも中小企業の数が多すぎたこと、社長(経営者)の数が多すぎたことが問題なのだ。