村田諒太に勝った38歳元プロボクサーが東京五輪狙い16年ぶりアマ復帰し歴史的勝利!「普通のおじさんじゃなかった」
アマチュアボクシングの東京都ボクシング選手権2日目が都内の朝鮮大学で行われ、16年ぶりにアマチュア復帰した元OPBF東洋太平洋ミドル級王者の佐藤幸治(38、日大OB)がミドル級で若手のホープ、須永大護(19、東洋大)を2-1判定で下して優勝、9月の関東ブロック大会へ駒を進めた。日本ボクシング連盟の山根明・元会長の退任騒動を受けて先月、正式にプロアマ解禁が決定。その復帰手続きを踏んで試合に臨んだ佐藤はプロからアマへ復帰した歴史的ボクサーの第1号となった。佐藤はアマ時代の2003年にロンドン五輪金メダリストで、元WBA世界ミドル級王者の村田諒太(33、帝拳)に勝った男。7年ぶりに現役復帰した38歳のオールドボクサーの東京五輪出場を目指す異例の挑戦がスタートした。
内山、山中の世界王者2人が応援
朝鮮大学ボクシング部の練習場を使った殺風景な試合会場に豪華な応援団がかけつけた。38歳、佐藤の異例の挑戦を見守ろうとアマ時代に共に五輪を目指した元WBA世界スーパーフェザー級スーパー王者で、現在「KOD LAB FITNESS BOXING」代表の内山高志(39)と帝拳ジムの後輩、元WBC世界バンタム級王者の山中慎介(36)らが激励に訪れたのだ。 「本当に感謝です。下手な試合は見せられないっすね。プレッシャーです」 公式試合のリングに上がるのは2011年12月の東洋太平洋ミドル級と日本同級王座の統一戦で淵上誠に9ラウンドTKO負けして以来8年ぶりでアマでは実に16年ぶりとなる。 赤コーナーの下で日大の梅下監督にタオルで目を押さえてもらい、呼吸を整える母校の日大ボクシング部伝統のリングイン儀式。 「感激で泣きそうになりました」という。 出場選手が3人しかなく抽選で初戦即決勝となった佐藤の相手は1回戦を3-0判定で勝ってきた須永。日大の梅下監督が「高校で2冠。アジアユース代表で2024年五輪の最有力候補」と警戒していたホープである。駿台学園高時代にインターハイ、国体のミドル級の2冠。この大会には、大学1年ながら佐藤と同じく東京五輪を狙ってエントリーしてきた。 須永は、試合前、佐藤のことを「こんなことを言ったら失礼ですが、おじさんなんで、そこまで意識していなかったんです」と見ていた。 19歳差。佐藤が自衛隊体育学校時代に当時高校生だった村田を全日本選手権の決勝で破り、アマ13冠の怪物だったという過去の栄光など知らない世代である。 第1ラウンド。佐藤の左ジャブが面白いように当たった。リードブローで主導権を握る。 「ジャブがうまいとは聞いていたので警戒していたんですが、自分のジャブが当たらないなあと考えていた時にボンボンもらって…相打ちでももらい、リズムを狂わされました」とは、須永の回顧。 だが、このラウンドの終わりに佐藤は、須永の右のフックを被弾し、足がよろけた。ブランク、そして年齢からくる耐久力の低下もあったのだろう。 第2ラウンドも須永の流れが続く。強烈な右のフックをかぶせられ、ワンツーを浴びた。身長で4センチ差。スピードも須永が上だった。 アマチュアボクシングにも詳しい内山が、「1ラウンドはジャブの数で幸治、2ラウンドは右のヒットで須永君、次のラウンドを取った方が勝ちですね」と分析し、観客席の後ろから大きな声を出した。 「幸治! 重心を下げて!」 佐藤は勝負の第3ラウンドで前に出た。 左ジャブから、このラウンドの序盤は距離をうまくとって、須永の反撃に水を差した。そこから失速どころか、アクセル全開。現役時代に得意だった左右のフックをガードの上からでもお構いなしに叩きこみ、右からの“逆バージョン“のワンツースリーのコンビネーションブローまで使って圧倒した。 「前へ行きました。アマの傾向として攻めた方がいいので」 「残り30秒!」の声がかかると、さらに加速。鬼の形相で休みなく打った。そしてゴング。レフェリーに左手を持たれて判定を待つ。 「3ラウンドは取ったので、たぶん勝ちじゃないかな。でも思った以上にやられたな」 ジャッジの基準はプロとは違う。自信と不安が交錯。心中は穏やかではなかった。 「勝者、赤コーナー……」とまで女性の声でアナウンスされると、佐藤は、顔をくしゃくしゃにして手を低い天井につき上げた。 29-28が2人、28-29が1人の2-1判定。一人のジャッジは第1ラウンド終了間際に須永が効かせた一発を支持したようだった。 「あと30秒。さらに攻めこまれていたら、もう一人も須永につけていたかも」と関係者が語るほどの薄氷勝利だった。 「ほんと嬉しいです。嬉しすぎると涙が出ないものですね。でも甘くないことがよくわかりました。皆さんに迷惑をかけてここまできた。普通の勝負じゃない。ほんと負けられない試合だったんです。なりふりかまわず。ただ一生懸命でした。ギリギリですが、次へはつながったかなと」 8年ぶりの勝利。国内のアマの試合では134勝目となる。 「久しぶりの勝利です。今まで味わったことのない新しい感覚の勝利です」 セコンドについた梅下監督も目が赤かった。 「気持ちで勝った試合。3ラウンドですね。あそこを頑張ってくれたのが勝因です。彼の底力を感じました」