光量子コンピューターの実験室の様子と世界的権威の古澤明教授。

「ムーンショットという国プロ（国の研究開発プロジェクト）では、科学技術に対して巨額のお金を投入しています。われわれに何が求められているかを考えると、やはり新しいテクノロジーを生み出して、それが社会実装されることです」 【全画像をみる】ノーベル賞候補・東大研究室からスピンアウト。“光”の量子コンピューター、商用化への道筋 「光量子コンピューター」研究の世界的権威でノーベル賞候補としても名前が上がる、東京大学の古澤明教授はこう語る。 光量子コンピューターは、次世代コンピューターとして期待される量子コンピューターの中でも、古澤教授を筆頭に日本が研究をリードする分野だ。 古澤教授は2024年9月、研究室で研鑽を積んだ若手研究者らと共に光量子コンピューターのスタートアップ「OptQC」を設立した。研究開発型（ディープテック）スタートアップへの注目が集まる中、ノーベル賞級の研究者が立ち上げたスタートアップの狙いと、光量子コンピューターの展望を探る。

「5年以内に世界に売れる実機を」

OptQCの代表を務めるのは、古澤教授の研究室出身であり、共同創業者でもある高瀬寛氏。9月17日、都内で開催された記者会見で高瀬氏は、 「5年以内に世界に売れる実機を構築するのがミッションです」 と話し、1号機を2025年度に完成、2026年度に商用利用を開始すると計画を明かした。古澤教授（同社取締役）も記者会見に参加し、 「今後も、（大学や研究所から）スピンアウトできるようなテクノロジーを生み出していきたい」（古澤教授） と意気込みを語っていた。 次世代のコンピューターとして期待される量子コンピューターでは、「量子ビット」と呼ばれる量子力学の原理を活用した装置を使って計算する。 どんなものを「量子ビット」にするのか、方式はさまざまだ。よく知られているのは、超伝導回路や電子、原子を使った方法。グーグルやIBMといった巨大IT企業も、人材と資金を投入して開発を進めてきた。 ただ、実用に耐える量子コンピューターを構築するには、いかに大量の量子ビットを組み込むかが重要になる。これまで開発が進められてきたメジャーな量子コンピューターは、冷凍装置や真空装置を用いて特殊な環境を作る必要があった。 これに対して、光を使った量子コンピューターは「室温・大気中」で操作が可能なため大規模化が比較的容易で、光通信技術とのなじみもよいのが魅力だ。 世界ではグーグルやIBMなどの巨大IT企業を筆頭に、熾烈な量子コンピューターの開発競争が繰り広げられているが、高瀬氏は 「もちろん勝負になると思って会社を始めている。光方式特有のスケーラビリティーと光通信との融和性があるからこそ、少数精鋭のスタートアップでも勝負していけると考えている」 と自信を語る。その背景には、古澤教授の研究室を中心に、これまで蓄積されてきた20年の基礎技術があると強調した。