「日本の照明は明るすぎる」暮らしが変わる光の位置、色温度、電球の選び方
照明で作る空間の美しさ
私は以前勤めていた会社で映像制作の仕事をしていました。映像作りで照明は大事な要素です。照明技師さんが「重要なのは光を当てることではない。影を作ることだ」と教えてくれたのが、今も心に残っています。 住まいの空間作りにおける照明も同じです。空間の美しさを引き出すためには、影を作り出すことが大切なのです。影が重要となるのは、照明によって生じる影自体が空間に奥行きとコントラストを与え、見せたいもの、見せたくないものを振り分けていくからです。ただし、影の扱いには慎重さも求められます。過度に影が多い空間は、圧迫感を感じるし、部屋の目的に合わない場合もあります。キッチンのような場所では、影が手元の作業の邪魔にならない明るい照明が必要です。 ---------- 調理中はシンク上の棚下灯で明るく照らし、棚下灯を消せば、続くダイニング、リビングと同じ陰影を感じる設計に。設置されていた明るいダウンライトは外し、小さめの径のピンホールに変更。奥にはスタンドライト、カウンターにはペンダントライトを低めに吊るすことでキッチンに奥行きを出しました。〈YK邸〉 ---------- 一方、リビングやダイニングは、ソフトな影を作り出すことで、リラックスできる雰囲気になります。リノベーションをするときの照明計画で難しいのは、これらすべてを、何よりも先に確定しなくてはならないということです。天井や壁の変更を伴うリノベーションの場合、最初に行うのは電気工事だからです。どこにどんな家具を置くか、どこに絵画を掛けるか、そしてどこにペンダントライトを吊るすか、コンセントを設置するか......すべて最初に決めておかなくてはなりません。 照明計画は、光の強さ、方向、色温度、そして影の形を考慮して行いますが、LEDダウンライトなどは器具のひとつひとつに特徴があり、どのメーカーを選ぶかによっても違いが出てきます。 ---------- 玄関脇のニッチスペースにはひとつだけ置いた調度品が際立つように、ピンホール狭角ダウンライトを設置。埋め込み穴の径が小さいダウンライトを選び、調光できるようにしています。〈YK邸〉 ---------- どんなに素敵な場所も、陰影のない照明デザインではつまらない空間になってしまうように、どんな場所でも、調光を取り入れ、陰影のある照明デザインを行えば、そこは雰囲気のある空間へと変化します。 「影が光をデザインする」ということを意識して、どのような間取りにして、床材はどうするかということの前に、どんな照明設計にするかをまず最初に確認して進んでいくことが重要です。 ---------- 茶室に入る時の胸が躍るような感覚を再現するために、玄関は暗めにしています。光が下駄箱やトイレなど、“現実的なもの”には当たらないよう、天井照明はなくして飾り棚に目がいく照明設計に。影を作ることで、のっぺりした空間が立体的になります。 ----------