大坂なおみが「ダンス」で苦手なクレーを克服 "赤土最強の女王"を追い詰めた驚異の進化
【「あなたを誇りに思う」と書き記した】 ところが......このゲームでの大坂は、今までになかったいくつかのミスをする。 30-15の場面では、サーブで崩しオープンコートめがけて放ったショットを、ネットにかけた。デュースの局面では、やや強引に打ったバックハンドがネットを叩く。最後はバックハンドが長くなり、土壇場でブレークを許した。 そして、流れは反転する。2ゲーム後の自身のサービスゲームでは、2度のダブルフォルトで許したブレーク。 試合開始から2時間57分──。大坂のバックのクロスがラインを割り、死闘に終止符が打たれた。シフィオンテクとハグを交わし、淡々とバッグを担ぎ出口に向かう彼女は、湧き上がる大歓声に手を振って応える。コートをあとにした彼女は、涙を流したという。 その後に彼女が行なったのは、ノートに思いを書き止めること。それは数週間前から始めた習慣であり、バレエの師のエリオットの影響でもあった。 「書くことは、タメになる。たくさんの考えをクリアに見ることができるから」という彼女は、自分へエールを送るように、「あなたを誇りに思う」と書き記したという。 試合から約40分後。会見室に現れた大坂は、穏やかな表情だった。それは終盤の逆転劇にも、自分にマッチポイントがあったことすら気づかぬほどに、目の前のボールに集中していたからにほかならないだろう。 いい試合ができた喜びと、勝てなかった悔い、どちらが大きいか──? その問いに大坂は、答えを探すように小さくうつむき、しばし黙したあと、つと顔を上げてこう言った。 「マドリード大会で負けた時、チームのみんなに『私はまたトップ5に戻れると思う?』と聞いたら、肯定してくれたのを覚えている。今回は、準々決勝や準決勝に行けたわけではない。それでも、そこに戻る道の最中にいると感じられた。それが私にとって、何よりポジティブなこと。 今回は、彼女(シフィオンテク)が得意なコートで戦った。私は『ハードコートの子』。だから今度、『私のコート』で戦った時に、どうなるのかが楽しみなの」
【ママ初のGS優勝は9月の全米オープン?】 チャーミングに笑みに自信をにじませて、彼女はさらにこう続けた。 「オーストラリアの時から言っているように、私は9月に照準を合わせているから」 9月とはすなわち、彼女が過去2度トロフィーを抱いた、ハードコートの全米オープンを指す。 子どもの頃から大坂は、「白昼夢のようなシナリオを思い描いてきた」と言った。そしてその多くを、現実に変えてきたとも。 だから、彼女が今年の全米オープンで優勝できると言ったとしても、それを白昼夢だと笑う人は、もはやどこにもいないだろう。
内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki