最大の敗者はUSスチールに 日鉄の買収計画頓挫、続く中国鉄鋼生産の支配力
買収阻止を明言していたトランプ次期大統領は昨年、「税制優遇措置と関税を通じて、USスチールを再び強く偉大な企業にする」と表明したが、技術力なしに製造業の競争力の真の回復は望めない。トランプ氏は前政権時代に、既に関税を引き上げて米鉄鋼業界を保護している。それでもUSスチールが身売りを決断した事実が、政府による支援の限界を示す。
米大統領選の最中の昨年10月、トランプ前政権で副大統領を務めたペンス氏は、日鉄の買収が承認されなければ「何千人もの米国人労働者が職を失い、(USスチールの本拠地のペンシルベニア州など)『ラストベルト』と呼ばれる工業地帯は再び空洞化し、政府に裏切られることになる」と指摘していた。
■米鉄鋼業の復権か、衰退か
USWは、買収阻止で政治的な影響力を誇示する勝者となったように映るが、USスチールの先行き次第では、米鉄鋼業の復権か、衰退かの重大な岐路で道を誤らせた敗者になるかもしれない。
世界の鉄鋼市場では、景気低迷で内需がしぼむ中でも過剰生産を続ける中国の輸出拡大が市況を荒らしている。日鉄は今後、高成長が続くインド事業や既存の米国事業の強化を探る見込みだが、日米連合の実現により「中国による世界の鉄鋼生産の支配力は弱まるだろう」(ブリット氏)との期待は幻となった。
バイデン氏の決定で得をしたのはいったい誰なのか。安保の観点で外資から守られたはずのUSスチールとその株主、従業員でないことは確かだ。(池田昇)