ドジャース・ロバーツ監督の人の良さがにじみ出た大谷翔平との〝極秘〟交渉秘話
【元局アナ青池奈津子のメジャー通信】ドジャースが優勝した今だから明かせる話がある。時をさかのぼり、昨年12月5日。その時期の米テネシー州ナッシュビルの平均気温は5~6度だが、不思議と寒さを感じさせない南国風のリゾートホテルで行われたMLBウインターミーティング(WM)2日目に、会見前のドジャースのデーブ・ロバーツ監督に遭遇した時のことだ。 12月になるとシーズン中の疲れも取れ、ホテルのホリデーシーズンのデコレーションも相まって、久しぶりに顔を合わせるWMはどこか同窓会のような雰囲気がある。それでいて、裏では球団幹部や代理人たちの間で選手の移籍やトレード交渉が行われている。メディアにとっては自分のネットワークを生かし、いかに信頼できる情報をキャッチして速報を出せるか…。言い換えるとピリピリしたお祭りにいるみたいなのだが、そこに昨オフは大谷翔平選手のFA移籍交渉があった。極秘で行われていたため、情報も錯綜したりと緊張感も3倍増しだった。 そんな中、トロピカルなヤシの木がやたら似合う、いつもの満面の笑みで緩やかに登場したのがデーブ。長い廊下を歩きながらなじみの顔ぶれを見かけては、ハグと短いあいさつを交わしていく。監督会見も30球団で最後の組。ドジャースは大谷の本命とされ、どの球団の監督らも大谷との面談については「コメントできない」と肯定も否定もしない姿勢を貫いていた。そのためデーブの回答は注目の的。彼を知らない記者はゆっくりと進んでくるデーブに、おそらく心の中で「早く」とつぶやいていたに違いない。 そんな雰囲気の中、彼が席に着く2分前だっただろうか。ドジャース監督就任からかれこれ8年の付き合いになるので、私の方にも「ハウ・アー・ユー? 日本の家族は元気か?」と声を掛けに来てくれた。「アイム・グッド!」と答えた後で、反射的にデーブと似たようなトーンで「ハウ・アー・ユー? ショーヘイとのミーティングはどうだった?」と冗談っぽく聞いてみた。 デーブの人の良さはこんな時に表れる。シーズン中、大谷についてよく聞かれていたとはいえ、そこは当然黙秘するだろうと思っていたら…。歩いていた足をほんの一瞬だけ止めてニカッと笑い「素晴らしかったよ! うまくいったと思う。彼(大谷)はなかなか興味深い人物だね」。 思わぬコメントに頭がフリーズした。次の瞬間「あ、会見だから行かなきゃ」ときびすを返したデーブに「それ、言ったらダメなやつ!」と言えなかったことをどれだけ後悔したか。そのままデーブは大谷と会ったことを会見で明かし、会場の空気は一変。緊張感が5倍増しになった。 この件についてデーブと話をできたのは、シーズンも半ばに入ってから。「そうだよ、君だった!」と言って笑い飛ばしたデーブは、やっぱり人がいい。「ウソウソ、冗談だよ! あれは僕の判断。本当に、てっきり世間には知られていることだと思っていたんだ。でもまあ、ショーヘイも選んでくれたし、ドジャースに来てすごく楽しそうでしょ? 彼が気に入ってくれることが一番」。最後には話題がすり替わっていた。 「デーブは毎日、同じエネルギーとポジティブさをもたらしてくれる」と多くの選手やコーチらが仰ぐ。今シーズンも気持ちいいくらい何でもはっきり答えてくれた(分からないことは「分からない」とも)。話しやすい環境をつくってくれたことに改めて感謝したい。
青池 奈津子