世界の女性が憧れる「パリジェンヌ」という存在
ありそうでないステレオタイプ
しかしながら実際のパリジェンヌはこのようなステレオタイプで捉えられない。「メディアや広告は、神話化されたパリジェンヌの理想像をたれ流しています。それが売れるからです。過剰なメディア化により、ステレオタイプがもっともらしく見えてしまう。この流れを変えるのは難しいですが、自分なりにできることをしようと思います」とフランス人インフルエンサーでクィアのセシリア・ジュルダンは語る。彼女はニューヨークから「Hello French」のアカウント名でパリジェンヌの多様性について発信している。 2006年からパリに住んでいるアメリカ人ジャーナリストのリンジー・トラムタもパリに対する固定観念と戦うひとりだ。「メディアは表面的なイメージを植えつけています。たとえばニューヨーク・タイムズ紙はジャンヌ・ダマスに、「メゾン・デ・ファム」(訳註:性的暴力の犠牲となった女性を受け入れるパリ近郊のシェルター)を支援していることについて一切質問していません。なかなか変わりませんが、人々が実際にパリを訪れたら、この街の多様性を発見するでしょう」と今後に期待を寄せる。リンジー・トラムタは2020年、『The new Parisienne - The women & ideas shaping Paris (原題訳:新しいパリジェンヌ、パリを形作る女性と思想)』という本を出版し、40名のフランス女性、たとえばジャーナリストのロラン・バスティドや活動家のロカヤ・ディアロ、パリ市長のアンヌ・イダルゴらを取り上げた。多様なパリジェンヌ像を紹介することで、インスタグラムでの単純すぎるステレオタイプなイメージを打破することを目指している。「パリジェンヌの神話は、時代遅れのワンパターンなイメージに基づいています。私は、文化の中心であるパリがパリジェンヌのパワーに支えられていることを明らかにしたかったのです」
「エミリー、パリへ行く」
ところが残念なことに彼女の本が出版されたのとほぼ同時期、ドラマシリーズ「エミリー、パリへ行く」の配信が開始した。そして事態はリンジー・トラムタの思惑とは逆の方向に進んだ。「あのドラマはパリでの暮らしをおとぎ話に仕立てています。実際の暮らしはもっと複雑で愉快で豊かなのに」とリンジー・トラムタは嘆く。そして多様なパリジェンヌのリアルな姿を伝える映画や動画が最近の米国で紹介されないことも残念がる。フレンチドラマ「エージェント物語」は米国でも配信されているが、このドラマはパリの中でも「選ばれた人たち」の暮らししか見せていないし、女性の描き方が誇張されており、問題があるというのがリンジー・トラムタの見解だ。幸い、パリジェンヌの虚像を打ち砕こうとしているのは彼女だけではない。たとえばアメリカ女性ローラン・ベイツが設立した「Wild Terrains(ワイルド・テレインズ)」は女性向けの少人数制フランス旅行を企画しており、「本物の」パリジェンヌとの出会いをセッティングしている。「わたしどものお客様はインスピレーションを求めてパリを訪れます。そしてインスピレーションを与えてくれる元気なパリジェンヌたちと真の交流をするのです」
text : Anne-laure Peytavin (madame.lefigaro.fr)