ドローンが頭上を飛ぶウクライナの日常 黒海沿岸現地ルポ ロシア軍占領下の記憶が残る村
地響きのような爆発音
9人家族のセルゲイさん(41歳)は、ロシア占領下にある東岸地域で、花卉栽培・販売業を営んでいた。侵攻が始まって間もなく、地元から離れ過ぎず、いくらか安全と思われるオデーサ郊外に仮住まいの家を借りて、避難生活を送っていたという。しかし、その日の未明、「ドローンが飛んで来る音に気付いて、寝ていた子供たちをひとつの部屋に集め、床に伏せさせました。次の瞬間、地響きのような大きな爆発音がして窓ガラスが飛び散りました。誰もけがをしなかったのは神のご加護です」。 交戦地域から避難した先で、今度はドローン攻撃に巻き込まれたセルゲイさんは、「いくら逃げても戦争が追いかけてくる。こんな目に遭うとは思いませんでした。子供たちのためにも、この戦争が一日も早く終わることだけを願っています」と話した。 ロシア軍のドローンが日常的に通過する真下で暮らすウクライナの人々は、その飛行音を「バイクが空中を走っているような『ブルルルル~』というエンジン音が聞こえるので分かる」と異口同音に説明する。 ミコライウ州都ミコライウ郊外で暮らす一家は、その音に日々怯えている。長く工場で働いていたヴィクトルさん(66歳)は、侵攻が始まって職場が閉鎖されるなど、強度のストレスにさらされ、脳卒中で突然倒れて寝たきりになった。「自分で家を建ててしまうほど何でもできる元気な人だったのに……」と嘆く妻オレーナさん(65歳)が付きっきりで介護をしている。 クリミア半島方面から発射されたとみられるドローンが通過するのは、もっぱら夜間のこと。同居する娘のカテリーナさん(22歳)は、ある夜、ドローンの機影を寝室の窓越しに目撃し、「恐ろしくてとっさにベッドの下に隠れました。つい先日はウクライナ軍に撃ち落されたドローンの破片が庭先に落ちて、衝撃で窓ガラスにひびが入りました。父がこんな状態なので、万一の時に家族で避難できないのではないかと不安でなりません」。