ドローンが頭上を飛ぶウクライナの日常 黒海沿岸現地ルポ ロシア軍占領下の記憶が残る村
ロシアによるウクライナ軍事侵攻が始まって2年半余り、今も激しい戦闘と全土へのミサイル・ドローン攻撃が続く。この「戦争」については、日本のメディアでも軍事作戦の詳細な分析、欧米諸国とロシアの駆け引き、核使用の可能性などに関する情報や論考が好んで報じられる一方、ともすれば、そこに私たちと同じ生身の人々が暮らしているという、しごく当たり前の事実には目が向きにくい傾向がある。この9月中旬、黒海に面する国際港湾都市オデーサ、ロシアが併合したクリミア半島の付け根に位置する要衝ヘルソン州などウクライナ南部を訪ねて、戦時下に生きる人々の今を目の当たりにした。 【画像】死刑囚が「アイマスク」をするヤバすぎる理由 (記事に登場する人物は全員実名で取材に応じたが、すべて仮名にしてある)
避難先にドローン「戦争が追いかけてくる」
「オデーサ郊外の町で未明にドローン攻撃があった。被害状況を見に行くので一緒に来ないか」――。ウクライナ南部の港湾都市オデーサで、人道支援に取り組む現地NGOのスタッフに誘われ、市街中心部から車で40分ほどの現場に向かった。ちなみに、かつてオデッサと呼ばれていた「黒海の真珠」オデーサは、映画史に残る名作「戦艦ポチョムキン」の舞台にもなった世界遺産の美しい街である。 何の変哲もない静かな北郊の住宅街は、人々が集まって騒然としていた。住民たちは「夜中の2時過ぎ、ドローンが落下して民家20軒が被害を受け、お年寄りの男性1人が負傷した」と証言した。周辺に軍事施設があるわけではない。現場では大きな邸宅の車庫や壁面が大破し、向かいの家々の窓ガラスも全部吹き飛んでいて、負傷者1人で済んだのは幸運だったのかも知れない。 軍事侵攻が長期化する中、非常に高額なミサイルに代わって急増しているのが、生産が容易でコストも抑えられるドローン(無人機)による攻撃である。ゼレンスキー大統領は9月16日、今月前半だけで「イラン製無人機『シャヘド』640機以上による攻撃があった」と発表した。直前の15日夜から16日朝にかけても、北部キーウ州などに56機のシャヘドが襲来し、53機を撃ち落したという。もちろん、ウクライナ側もドローンで反撃している。 オデーサ北郊の現場は発生から8時間ほどしか経っておらず、火事場のような焦げ臭い空気がかすかに漂う。「そこにあるのがドローンの残骸だ」と言われて見ると、道路脇にできた直径4~5メートルほどの浅い窪みに、さまざまな形状をした黒い金属製のパーツが散らばっている。軍事専門家ではないので、それらが何なのか断定できないが、これまでにウクライナ国内で確認された「シャヘド136」=ロシア名「ゲラン2」と全く同じキリル文字(ロシア語)の白い印字が明瞭に読み取れた。 それよりも、私が「ああ……」と思わず嘆息したのは、被害を受けた住民の中に、前日行ったばかりのヘルソン州から逃れて来た国内避難民の家族がいることだった。ヘルソン州は開戦直後の2022年3月、ロシア軍に全域を占領され、ウクライナ軍が同年11月に州都ヘルソンを含むドニプロ川西岸を奪還したものの、東岸はロシア軍に占領されたまま戦闘が続いている。