モテたい、食べたい、遊びたい、うまいコピーは人間の欲をさりげなくくすぐる
■ 優越感をくすぐるコピー 【他人に勝りたい】 例:「 率直に言ってアメリカン・エキスプレス・カードはすべての人のためのものではありません。また、お申し込みいただいた方全員が会員になれるわけではありません」 キャッチコピーの効果的な方法の一つとして、「特別なあなただけ」「他の人とは違うあなただけ」という、ターゲットをおだてるアプローチがあります。 たとえば、先日、高校受験を控えた中学3年生の娘宛に、某予備校から「お子様は当校に入塾できる成績でしたので、特別にご案内します」というキャッチコピーのDM(ダイレクトメール)が届きました。 当初は「なぜ、このようなDMが送られてきたのか?」と怪しみました。なぜなら、その予備校には資料請求をしたことがなく、ただ「中学生全国模試」という無料テストの受験会場だっただけの関係性だからです。 でも、今から考えれば、その無料テストの運営母体が予備校と関係していて、予備校がリストを取るためのフロントエンド(※)であったと考えられます。つまり、リストを使って「成績の良かったあなただけ、特別に入塾を許します」という特別感を打ち出しながら、予備校への勧誘を行ったわけです。 この方法を使った有名なビジネスレターが、キャッチコピーの例でご紹介したアメリカン・エキスプレス・カードです。このアプローチは、人間の欲求の一つ、「他人に勝りたい」という心を上手に突いています。 ※フロントエンドとは集客商品と呼ばれており、名前の通り販売プロセスのフロント(前)に置かれる商品のこと。 フロントエンドで見込み客を集客し、本当にセールスしたいバックエンド商品につなげる役割がある。
■ 出世欲をさりげなく突いたコピー 【愛する人を守りたい】 例:「私たちの製品は、公害と、騒音と、廃棄物を生みだしています。」 自分に子どもができると、「無償の愛」とはこういうものかと、つくづく感じることがあります。人間には「愛する人を守りたい」という欲求があるのです。 このキャッチコピーは、ボルボ・カーズ・ジャパンのもの。自動車メーカーの自己責任を言いながら、自動車所有者すべてに問題を投げかけています。その行き先は、未来の子どもたちを守るという想いにもつながっていますね。 この「愛する人を守りたい」というアプローチは購入を促すのには弱いと思いますが、それを語るメーカーのブランディングには効果的で、長期的なファン獲得に貢献すると思います。 【社会的に認められたい】 例:「もし、自分の狭い日常のこと以外に関心のない方ならば……そんな方には『ニューズウィーク』はお門違いで、何のお役にも立てません」 「社会的に認められたい」とは、簡単に言うと「出世欲」です。「お金持ちになりたい」とは別に、「他人から立派な人間と思われたい」という気持ちを誰もが抱いています。 そんな出世欲をさりげなく刺激したアプローチがニューズウィークのキャッチコピーです。 直接的に「出世欲」を語ってはいませんが、ターゲットに対して「できるビジネスマンなら、優れた情報を得ることは当然ですよね」と、遠回しに「出世欲」を刺激しているわけです。(第3回「言葉尻をいじる」に続く) 中村 ブラウン 1962年、東京都生まれ。広告クリエイター、集客コンサルタント、ラジオDJ。 電通グループの広告代理店などでシニアコピーディレクターとして、20年以上にわたってBMWのブランディングを支えてきた。「全日本DM大賞」をはじめ国内外での受賞歴を持つ。独立後はオフィスブラウン代表として、BMWを筆頭に、スズキ自動車、三菱自動車、KDDI、富士フィルムなどのマーケティングに関わり、現在は中小企業を中心に広告戦略の立案やクリエイティブを提供。ブランディングやダイレクトマーケティングについてのコンサルタントを行っている。また、映画『うなぎ』でカンヌグランプリを獲得した脚本家・冨川元文氏に師事し、日本で最も権威あるNHKの脚本コンクールにおいて3度連続でファイナリストに選出。 著書に『小さな会社だからこそ、DMは最強のツール!』(WAVE出版)。FM番組に「中村ブラウンのAIラジオドラマ ~人生って、ドラマなの? ! ~」(市川うららFM 83.0MHz)がある。
中村 ブラウン