2025年から可能に! NISA口座を「複数」保有する方法。そのメリット・デメリットは?
金融機関変更のルール
金融庁が主管するNISAは、少額投資「非課税」制度である。そのため、非課税保有限度額については、国税庁が一括管理を行っている。マイナンバーで照合し、厳格に管理しているというのだ。 「だから、ひとりの人間が同時に複数のNISA口座で取引して3倍増し、なんてことは出来ない」と、中村氏は説明する。「逆に、年をまたいでNISA取引を行う金融機関を変更しても、生涯投資枠の残高はしっかり管理することができる」 そのため、金融機関の変更には、いくつかの制限がある。 特定の年(1月1日~12月31日)に、NISAで「取引」できるのは1人1口座。 翌年の金融機関を変更するための申請期間は、当年の10月1日から翌年の9月30日まで。 金融機関を変更するには、以前の金融機関より「勘定廃止通知書」または「非課税口座廃止通知書」を取り寄せ、廃止通知情報を記入し、新しい金融機関に提出しなくてはならない。 注:「勘定廃止通知書」は取引だけを止めるもので、非課税資産は以前の金融機関に残しておける。「非課税口座廃止通知書」は取引および運用を止めるもので、非課税資産はすべて売却しなくてはならない(その場合、生涯投資枠は翌年に復活する)。 これらをクリアすればNISAでの取引を行う金融機関を変更できるし、求めるならば非課税運用だけを行う口座を増やしていける。
メリット・デメリット
ちなみにNISAでは、金融機関の変更(他社への乗り換え)は可能だが、「移管」はできない。移管とは、とある金融機関で管理している金融商品を、別の金融機関に移して管理することだ。特定口座や一般口座なら、移管が可能なところは多い。 おそらくこの移管ができない理由も、年間投資枠・生涯投資枠の縛りがあるからだろう。簡単に移管出来てしまうと、それらの管理コストが増すことは容易に想像できる。逆に利用者側としても、以前の金融機関に「非課税」のまま資産を残して置けるなら気軽に金融機関を変更しやすい。 そこで、複数の金融機関に複数のNISA口座を保有することのメリット・デメリットを整理しておこう。 メリット デメリット 自分に合った金融機関を探すことができる。 新規獲得キャンペーンの特典を獲得できる。 投資者保護基金制度を最大限に利用できる。 資産が分散しすぎて、管理が煩雑になる可能性がある。 新規獲得キャンペーンの特典獲得には条件が必要な場合も多い。 投資者保護基金制度の上限に届かない可能性がある。 メリットの項目を軸に、それぞれ解説していく。 自分に合った金融機関を探すことができる:手数料が高い、商品の取り揃えが少ない、アプリやWebのUI/UXが悪い……などなど、利用する金融機関に対して不満を感じることは多い。金融機関を変更すれば、そうした不便を解消できる。 また、ロボアドバイザーなどのおまかせ運用を利用していたが、もっと自分の意志を反映させた取引がしたくなる場合もあるだろう。もしくは、その逆もあり得る。そのように投資へのニーズが変わってきたときにも、金融機関の変更は役立つ。 「NISA口座を作ったのに、よく分からないから何も買っていないという人は意外と多い」と、中村氏は語る。「そういう場合は、分かるところへ移った方がいい」 ただし、口座を作りすぎて資産を分散しすぎると、パフォーマンスの効率が悪くなる場合もある。また、口座が増えるとそれだけ管理の手間が増えるのは言うまでもない。そうしたデメリットも理解しておこう。 新規獲得キャンペーンの特典を利用できる:特にNISA利用者は投資初心者が多いため、新規獲得キャンペーンも自然と手厚くなる。その一方、金融機関に限ったことではないが「釣った魚に餌をやらない」企業は多い。そんななか、金融機関を変更すれば、投資収益以外のメリットも大いに期待できる。 ただ、そうした新規獲得キャンペーンには各社経済圏への囲い込みという意味合いも強い。そのため、クレジットカードや携帯キャリアなどの変更が求められることもある。そこはさすがに面倒な点だろう(キャンペーンに参加しないという手もあるが)。 投資者保護基金制度を最大限に利用できる:預金における「預金保険制度」と同じように、投資においても「投資者保護基金制度」というものが存在する。これらは簡単に説明すると、銀行や証券会社が破綻したとしても、上限1000万円までなら資産を保護するというものだ。 だが、ご存知のとおり、新NISAの生涯投資枠は1800万円である。もしこの枠をフル活用するなら、投資者保護基金制度の上限を超えてしまう。「これを気にする人がいたら、金融機関の変更を行って、3つくらいにNISA口座を分けて運用するという手もある」と、中村氏も語る。 ただし、1800万円という投資枠はそれなりに大きい。あまり分散しすぎると、そもそも1000万円という投資者保護基金制度の上限に達しない可能性も出てくる。