アメリカのなかのイスラム教 ―― ムスリムは過激な集団なのか?
2001年9月11日、ニューヨークの世界貿易センタービルで起きた事件をきっかけに、アメリカではイスラム教徒とキリスト教徒との間に対立が起きていると伝えられています。メディアで伝えられるイスラム教徒=ムスリムのイメージはどうでしょうか? 自爆テロに走る狂信的で危険な人たち? しかし、それは情報の一面に過ぎないのではないか? そう感じながら、2010年から11年にかけて、アメリカ・ボストンに住むムスリムの写真を撮影し続けた同国在住のフォトジャーナリスト、鈴木雄介氏のルポをお届けします。
僕たちのイスラムのイメージ
2006年、アフガニスタンを訪れたことが僕のイスラム世界への初めての旅だった。目に映る物、耳に聞こえてくる音、街中に漂う匂い、肌で感じる空気、全てが日本とは違った。あまりのギャップに、日本に帰ってくるまでの間、まるで夢の中にいるような感覚だった。 2001年9月11日の世界貿易センタービルでの出来事をきっかけに、アメリカとイスラム社会の対立は決定的なものになった。アメリカは「テロとの戦い」という名の下に、国と国がぶつかり合う戦争から、姿の見えにくい個人が集まった組織との新たな形での戦争を、中東を中心に広げている。 TVや新聞を見れば、イスラム社会は自爆テロやライフルを手に政権打倒の革命やジハードを行う狂信的で危ないヒゲ面の集団であるかのような情報ばかりが流れ、何か事件が起こり、犯人がムスリムだとわかると「やっぱりか」というムードになり、ますますイスラムに対するイメージが悪くなる。
イスラムのイメージはメディアのイメージ
だがしかし、僕たちは一体彼らについて何を知っているのだろう? メディアから流れてくる情報だけで彼らを恐い人達と思っているのではないだろうか? 僕は、アフガニスタンで実際に自分が接して時間を共にした素朴な人達から感じた印象と、メディアが伝えるものの間に大きなギャップを感じていた。なにかそこには大きな誤解というか、無知から来る大きな勘違いがあると思っていた。無知というのは恐い物で、そこから誤解や間違った思い込みが生まれ、差別や憎しみが生まれる事もある。 そんな風に思っていたところ、当時僕が通っていた写真学校のあるボストンに、アメリカ東部で2番目に大きなモスクがあったのでイスラム教徒とはどんな人達なんだろうと思い、そこで開かれていたコーラン入門のクラスに参加し、しばらくした頃に自分のプロジェクトについて説明しモスク内で写真を撮りはじめた。 初めは世界中から集まった移民のムスリムの中に一人だけ日本人がいるのでとても目立ってやりにくい時もあったが、一度打ち解けると彼らはとても優しく、礼拝前に体と心を綺麗にする為に行うウドゥのやり方から礼拝の仕方まで教えてくれた。