アメリカのなかのイスラム教 ―― ムスリムは過激な集団なのか?
ムスリムも誕生日を祝い、ピクニックにも行く
彼らはお互いの事をたとえ名前は知らなくてもムスリムはみな兄弟という考えからブラザー、シスターと呼び合っていた。モスクはキリスト教でいう教会にあたる存在だけれども、地域のコミュニティセンターとしての役割も担っていて、誰かが職を探していれば掲示板に良い仕事先はないかと訪ねる張り紙がしてあったり、ルームメイト募集の張り紙があったりと彼らはいつもお互いを助け合い、金曜日は合同礼拝の日なので皆がモスクに来て友人達に会いおしゃべりを楽しんだり、コーランを学ぶクラスがあったり、時にはモスク2階の大きなスペースで結婚式の披露宴が行われる事もあった。モスクには小さな小学校も併設されていて、子供達が英語で通常教科の他にイスラムについて学ぶ事ができるようになっていた。 僕はモスクにあまり人がいない時は、中にあるギフトショップでカリムという元キリスト教徒のムスリムとお茶をしたりして時間を過ごした。ボストンは世界中から色々な人種の人が集まるので様々な事に対して寛容らしく、他の街と違って異なる人種、宗教が共存していた。キリスト教徒だったけど自分には合わないと感じてイスラムを学びだし、そしたらそちらの方が自分に合っていたので改宗したというアメリカ人もたくさんいて、僕には新鮮な驚きだった。モスクで出会った人達と仲良くなるうちに、何人かの人が家に招いてくれ一緒に晩ご飯を食べたり、子供の誕生日を祝ったり、週末には公園にお弁当を持ってピクニックにも行ったものだ。
メディアからは伝わらないイスラムの暖かさ
結局の所、彼らは僕達と何も変わらないし、むしろ今の日本やアメリカ社会よりもお互いの事を考え、信仰を元に心穏やかに生きている人達が多かったように思う。困っている人がいれば自分が持っているものを分け合って助けるのが彼らであり、それは僕が過去にアフガニスタンや他のイスラムの国で受けたホスピタリティそのものだった。 もちろんイスラム教にも様々な宗派があるし、国が違えば同じムスリムでも色んな人がいる。中には飛躍的な考え方をして好戦的で危ないグループがいるのも確かだ。でもそれは、他の宗教にも言える事であって、何もイスラム教にだけ限った話ではない。 悪い所は目に付きやすく、そこにさらに欧米メディアの偏見や知識不足、彼らのメディアとしての立ち位置から生まれる一方的な報道が当たり前になってしまって、僕らは知らない内に誇張された悪い面だけを彼らの姿として捉えてしまっているのだと思う。 実際に彼らに触れれば、人としてのその懐の暖かさに今まで持っていたイメージが変わるはずだ。メディアから流れてくる情報はあくまで主観的な物で真実であるとは限らず、実際の所は全く逆だったりもする。だから、時には自分の足と目を使って、自分の感覚で物事を探るという事も必要なのではないだろうか。 ■鈴木雄介氏プロフィール 1984年千葉県生まれ。音楽学校在学中に好奇心からアフガニスタンを訪れ、そこで出会ったジャーナリスト達に影響を受けて写真を始める。2010年に渡米し、ボストンの写真学校在学中より受賞多数、卒業後はニューヨークを拠点にフリーランスとして活動中。伝えられるべきストーリーや出来事の中に潜む人々の感情を、写真という動かないメディアに焼き付け、人に伝えるのを目標としている。