「世界で最も高価な航空機」米空軍の“記録”を更新! 即応性アップ期待も手放しで喜べない事情が
ステルス爆撃機の整備期間がグッと短縮
アメリカ空軍は2024年10月21日、ステルス爆撃機B-2「スピリット」の13号機、いわゆる「スピリット・オブ・ネブラスカ」号が、PDM(Programmed Depot Maintenance:計画補給所整備)と呼ばれるオーバーホール作業を終えて任務に復帰したことを発表しました。 【え、乗員の名前そこ!?】B-2ステルス爆撃機の細部アップ、写真を見る なお、同機は通常のPDM作業で予定していた日程よりも91日(約3か月)早く終わったそうで、今回の作業は「アメリカ空軍の即応体制にとって大きな勝利」とプレスリリースでは説明しています。 軍用機は一定期間の運用の後に、機体を専用施設に移動して部品単位にまで分解して再組み立てを行うオーバーホールが必要です。これは、日本の航空自衛隊ではIRAN(定期修理)と呼ばれる作業になります。 機体を分解することで、部隊の整備作業では行えない不良箇所の点検・交換が可能であることから、機体の性能維持や長期運用にとっては欠かせない作業といえるでしょう。ただ、そこまで大掛かりな整備のため、作業中は機体が任務どころか飛ぶこともできなくなます。ゆえに、その作業が91日も短縮できたことは運用面で大きなメリットであり、アメリカ空軍が「大きな勝利」と説明するのも理解できます。 ただ、発表されたリリースによると、1機のB-2爆撃機がPDM作業に掛かる期間は約470日にもなるそうです。今回のB-2の場合91日早く終わりましたが、それでもPDM作業自体には379日もの期間が掛かっています。1年4か月という期間が約1年になったのは大きな成果といえるでしょうが、そもそもオーバーホール作業にどうしてこれだけの時間がかかるのでしょうか。
なぜ、オーバーホール作業が1年以上もかかるの?
B-2爆撃機はレーダーで捉えにくいステルス機であり、爆撃機サイズで実用化されたのは2024年時点で同機が唯一です。しかし、そのステルス性を維持するのは簡単なことではなく、この膨大なPDM作業の多くはそのステルス性に関連したものだそうです。 アメリカ空軍によると、B-2のPDMは1機あたり9年に1度の間隔で実施され、作業では機体の徹底的な検査、オーバーホール、修理が行われます。 同作業のプログラムマネージャーであるステイシー・グラヴェット氏によれば「PDMの主目的は、B-2のLO(低観測性:ステルス性を指す軍事用語として使われる)を修復することで、そのために機体は分解され、他のメンテナンス作業も同時に行うことができます」と説明しています。 アメリカ空軍では現在、次世代ステルス爆撃機としてB-21「レイダー」を開発中で、同機の本格配備が進めばB-2は退役させる予定です。一部では、高性能なB-2を退役させることや、高いコストを掛けてB-21を新たに開発することに対し否定的な意見もありますが、それでもアメリカ空軍が開発と配備を急ぐのは、現用のB-2に膨大なコストと手間があまりにもかかっているからです。 じつはこのようなオーバーホール作業に1年程度の作業時間が掛かるのは、他の軍用機でもあることで、通常は他の機体とスケジューリングを調整して運用面で支障がないように対応します。しかし、B-2爆撃機は運用されている機体がたった19機と少なく、これが運用コストや任務面でも大きな制約となっています。