ヨーロッパは自由、平等を米先住民から学んだのに隠した...デヴィッド・グレーバーの遺作『万物の黎明』から受けた「知的なパンチ」
「そういうもの」を許さないグレーバーの主張の背景
小埜 ところで、「そういうもの」という妥協や諦念といった姿勢を許さない、グレーバーらの強い動機はどこから来ているのでしょうか? 酒井氏の「訳者あとがき」で、筆者である2人のデヴィッドはともにアウトサイダーの感覚は抜けなかったとあります。定説に対するカウンターアクション、つまりアカデミアにおける彼らの立ち位置が執筆の動機にも見えます。 アカデミアにおける「同質化の圧力」に迎合しない格好良さがあり、先行するダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』やハラリの『サピエンス全史』などのベストセラーに影響を受けているのは明らかです。 松田 長い時間をかけて発展してきた現代社会は合理性と必然性があり、その結果、生じた不平等などの課題を解決するのは難しい、などと私たちは諦めがちです。 しかし、現在から過去を見るから「そう見えているだけ」であることを『万物の黎明』は気づかせてくれます。社会は歴史的な必然でも社会進化の最前線でもないのだから、よりよい社会を構築できるはず...。読んでいると「めいっぱい考えよう!」と背中を押されて元気が出てきます。 これはグレーバーが社会を宿命や必然として諦める気が全くない、筋金入りのアナーキストだからです。根源的な問いを立てることができる稀有な研究者であり、社会を変えることができるという強い信念を持った活動家だからでもあります。
小埜栄一郎+松田史生