女優ルー・ドゥ・ラージュ、絶望と再生を寄り添わせた名演『夜明けの祈り』
取材前夜、フランス大使館で開催された、フランス映画祭の25回という節目を祝うパーティ。いつもは広々としているホールも詰めかけた招待客でこの日ばかりは立錐の余地もない。祝辞や演奏のたびに“注目して!”の意味を込めてチンチンとグラスが鳴らされても、招待客はお構いなし。皆おしゃべりがとまらない。 ただ、透ける素材で作られたディオールのミニドレスを着た若い女性が広間を横切ったときだけ、一瞬の静寂が訪れた。ルー・ドゥ・ラージュ、映画祭の参加作品でもある『夜明けの祈り』の主演女優だ。彼女は、カトリーヌ・ドヌーヴ、イザベル・ユペールらもいる会場で、ひと際存在感を示していた。翌朝の取材で開口一番そのことを告げると、低いトーンのハスキーボイスで「ドレスのおかげね」と彼女は笑った。
第2次世界大戦末期、ポーランドの修道女を襲った悲劇
第2次大戦末期、ソ連兵の蛮行により身ごもった7人のポーランドの修道女。暴行に傷ついたうえ、その行為は神への裏切りになると思い苦しむ彼女たち。だが生命は誕生しようとする。ポーランドの赤十字で働くフランス人医師マチルドは、言葉の通じない見知らぬシスターに請われ、その修道院を訪ねた……。映画『夜明けの祈り』で、医師マチルドを演じるのがルー・ドゥ・ラージュ。先日、日本公開された『世界にひとつの金メダル』にも出演。27歳にして大女優の片りんを感じさせる独特な存在感を持つ。
撮影は主に、ポーランドの廃屋となっていた修道院で行われた。ルー・ドゥ・ラージュにとっては、ポーランド語の女優に囲まれての仕事。撮影もまた、医師マチルドが異郷の地で味わった状況に近かったようだ。 「全然フランス語を理解しない女優さんたちと、馴染みのない修道院の世界に入って仕事をする。この2つに関してはまったくマチルドと同じ経験だったと思います。ただ私は違う言語を使う方々と仕事をするのは好き。言語が違うと、何ごとも短く濃くはっきり言うことになるから、無駄な装飾がいらない。ポーランドの女優さんたちも非常にそれを歓迎してくれました。そういう面ではラッキーだったと思います」