福島に向けられた罵詈雑言。作品に記録した高校生は、あえて「フクシマ」と向き合った
自画像と福島に「青」を使った理由
Xで話題になったのは、この「福島県」の写真だったが、実はその隣に自画像が設置されていた。西田さんの作品は、この自画像と「福島県」をセットで見ることで成り立つようになっている。 自画像の顔は、半分化粧、半分“すっぴん”。周りには、「上部だけ見てよ」「ほどいてみて」などと、思春期の不安定な気持ちがびっしりと書き込まれている。私と福島の共通点に、様々な言葉にとらわれてきた経験があるからだ。そして、それを「青色」で表現した。 「辛いこともあるけど、私も福島もまだまだ成長(復興)途中。未熟で『青い』けど、逆に言えば伸びしろはたくさんあることを表現したかった。私たちはずっとかわいそうな存在でいなければならないの?そんなことはないと思う」 市販の絵の具の色では納得できず、万年筆のインクを調合して自分の思う青色を何回も作った。そんなこだわりの作品に、SNSでは共感の声が広がっていった。 「前向きなコメントにうるっときた」「この誹謗中傷は過去の出来事ではなく現在進行形であることに怒りを感じる」「福島への悪意ある言葉を、福島を思いやる言葉で上書きする作品。すごく希望がある」ーー。 一方、SNSでこの作品が話題になったことで、「フクシマ」と検索すると、今度は自分に対する心ない投稿もヒットするのではないかと多少の怖さを感じていた。 「この怖さは特に震災直後の福島の人たちが味わってきた怖さと一緒だ」と自らに言い聞かせ、実際に「恨みを持つような教育をされてきた結果」という趣旨のコメントを見つけた時は、「私は福島の学校に通い、福島の人から話を聞き、福島のことを考えている。決して大人に操られているわけでなく、自分の意思で福島にいる。こんな言葉で傷つかない」と胸の中で反論した。 さらに今回、西田さんは自身の作品と向き合ったことで「教師になりたい」という将来の目標ができた。もともと内気な性格だが、様々なことに挑戦し、福島に何かを還元したいという感情が芽生えた。震災と原発事故の記憶や実感がだんだんと薄れていくこれからの子どもたちに、防災の大切さを伝えていきたいと感じた。 「震災と原発事故の悲しさや復興に向けて頑張っている人たちの姿は、誰かがしっかり記録して伝えていかなければならない。福島の危険や不安を煽る投稿や報道もまだあるけど、それぞれの立場や目的などを考えず、自分自身の『福島』の姿、実像をいちど言葉にしてみてほしい」