Creepy Nutsの紅白までの軌跡を“Bling-Bang-Bang-Born”から辿る。彼らの偉業とは
「売れること」と「消費されること」のあいだでもがく
Creepy Nutsは「人気者」への道を歩み続けてきたユニットだ。でもその道のりはまっすぐなものではなかった。R-指定とDJ松永は「売れること」と「消費されること」のあいだでもがき続けてきた2人でもある。 二人のスキルは申し分ない。というか飛び抜けている。DJ松永は『DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIP FINALS 2019』のバトル部門で優勝したターンテーブリスト。そして R-指定は、2012年から2014年にかけて『ULTIMATE MC BATTLE』(UMB)グランドチャンピオンシップ3連覇を果たしたラッパーだ。2015年にスタートした『フリースタイルダンジョン』は一世を風靡し、そこでもR-指定は初代モンスター、二代目ラスボスとして2010年代のMCバトルブームを牽引した。 それでも2017年のミニアルバム『助演男優賞』に収録された“未来予想図”にはこんなリリックがある。 <ダンジョンが終わり 世間の熱は下がり 冷やかし半分だった客足は遠ざかり 担がれた神輿 道端に置き去り> <したり顔のヘイター皆 水を得た魚 真っ先に槍玉あげられんの俺かな? 「お前のせいでシーンにガキが増えた」 「お前らが間違った広め方をしたせいだ」と> 2017年の時点で「ブームが終わり、テレビやメディアに見放された」未来像を自嘲的に歌っていたCreepy Nuts。だが、現実はそれとは真逆の方向に進んでいった。メディアは彼らを放っておかなかった。
成功と葛藤のはざまで。「テレビの人気者」を捨て勝ち取ったもの
2018年4月には『Creepy Nutsのオールナイトニッポン0(ZERO)』 がスタート。2019年4月からはDJ松永がTBSラジオの新帯番組『ACTION』の水曜レギュラーに抜擢される。 テレビの出演回数も激増した。DJ松永が『有吉ゼミ』で潔癖キャラとして人気を博したり、激辛グルメにチャレンジしたり。R-指定が『人志松本のすべらない話』に出演したり。2020年頃からはバラエティ番組で活躍する2人を目にすることも増えていった。 2019年8月にリリースされた『よふかしのうた』は、そうしたラジオでの人気の高まりや芸能界での人脈の広がりを反映した作品と言っていいだろう。表題曲も『オードリーのオールナイトニッポン10周年全国ツアー』のテーマソングとして書き下ろした一曲である。 それだけに、同ミニアルバムに収録された“生業”もとても重要な一曲だ。トラップのビートに乗せてセルフボースティングのリリックを綴るこの曲。ヒップホップユニットとしての自分たちの信条を真っ向から歌っている。それは「未来予想図」のリリックにある「したり顔のヘイター」へのメッセージでもあるだろう。 露出はその後も増えていった。2021年にはDJ松永が東京オリンピックの閉会式にDJとして登場するという大きな出来事もあった。この頃、親交の深いオードリーの番組『あちこちオードリー』に出演した時にはテレビの人気者になったことへの戸惑いや葛藤なども包み隠さず語っていた。 そして2023年、Creepy Nutsは音楽活動に専念するためにバラエティー番組への出演を止め、レギュラーだった『Creepy Nutsのオールナイトニッポン』も終了させる。 つまり「テレビで人気者として持て囃される」状況を自ら捨てて、自らの「生業」で勝負しようと決意したことで生まれたのが“Bling-Bang-Bang-Born”のヒットだったわけである。「売れること」と「消費されること」の間で、成功と葛藤の両方を味わってきたのがCreepy Nutsのヒストリーだ。そうした足跡の末に、音楽のパワーで有無を言わせない成果を勝ち取った。そこに大きな意味があると思う。