睡眠を考える──「大谷翔平に学ぶ睡眠力。良い眠りは運動技能の向上を促す!」
3月15日は「世界睡眠デー」。質の良い眠りとは何か? 今回はアスリート、大谷翔平の睡眠に学ぶ。 【写真を見る】歓喜のWBC優勝ほか、大谷翔平の名場面
睡眠を最優先する大谷翔平
テレビや新聞などのニュースで見ない日はない、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平。その活躍ぶりはいわずもがな、愛犬デコピンとの暮らしぶりや、結婚したことが速報で流れるなど、あらゆることがニュースになる日々だ。 なかでも、昨年5月、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の日本代表でともに戦った、セントルイス・カージナルスのラーズ・ヌートバーと対戦することになった前日、ヌートバーから食事に誘われた大谷が、「(その時間は)寝ている」と断ったことが大きく報じられたことを覚えている人も多いことだろう。「友人との食事より、翌日の試合のことを考えて寝ることを最優先させるとは、何とストイックなんだろう」とニュースを見ていた筆者は思ったものだが、とかく彼は「よく寝る」という印象が強い。 なぜ大谷はそんなに眠るのか。なぜこれほどまで睡眠を大切にしているのだろうか。なぜ寝ることで疲れが取れ、身体は回復するのだろうか。睡眠に特化したクリニックやサロンなどを経営し、プロ野球選手やJリーガーなどにマンツーマンでスリープコーチングを行う、一般社団法人オルソスリープアカデミー代表理事・矢野達人氏に訊いた。
運動技能の向上を促す睡眠
──寝ることで身体はどのように変化するのでしょうか。 深い睡眠をとることで、成長ホルモンが分泌してケガが治る、疲れがとれるといったことはもちろんですが、脳をコンディショニングするという大事な役割もあります。人間の身体は、どれだけ筋力をつけても、動かす指示を出しているのは脳であって、まずは脳を休ませないといけません。それが出来るのが睡眠なので、睡眠をおろそかにするとどれだけトレーニングをしても思うように身体が動かない、ということはあります。 ──脳が休まらないと、試合でもよいパフォーマンスが発揮できない? その通りです。一晩7.5時間寝るとして、ノンレム睡眠とレム睡眠を繰り返しますが、起きる直前の浅い睡眠が運動技能の向上を促す時間といわれています。2002年にカリフォルニア大学バークレー校の研究グループが、「楽器や運動などの技能の習得や向上には、目が覚める2時間前の最後の比較的浅い眠りが重要」という研究結果を発表しています。たとえばシュートやドリブル、トス、サーブなどの技術が向上したり、子どもが自転車に乗れるようになったり、字がきれいに書けるようになっていくのもこの時間次第といわれています。 なので、この起きる直前のノンレム睡眠がきちんととれていないと、どれだけ努力してもうまくならない。6時間以下の睡眠ですとこの時間が十分にとれていないことになるので、運動機能が向上しない。だから睡眠はリズムや時間が大事といわれているのです。いわゆる「質の良い睡眠」とは、このノンレム睡眠とレム睡眠が繰り返され、朝すっきりと気持ちよく目覚められること。具体的には人それぞれ異なるため、単純に「何時間寝ればいい」というものではありません。 ──昔のプロ野球選手は、試合が終わると夜の街に繰り出し、寝ないで翌日の試合に臨んでいたという武勇伝を話していたイメージがあります。 昔の話というよりも、わりと最近までひどかったですね(笑)。お金を持っている1軍選手の生活は派手ですし、「いい車に乗りたい、いい時計をしたい、きれいな女性と遊びたい」など、後輩たちも先輩の姿を見て育ちますので。ただ、プロ野球選手たちの生活パターンも、コロナ禍でずいぶん変わりました。夜遊びをしたくても出来なくなってしまった。コロナ禍と大谷選手の発言などの影響もあって、スポーツ選手における睡眠を取り巻く環境もずいぶんと変わってきたと思います。