睡眠を考える──「大谷翔平に学ぶ睡眠力。良い眠りは運動技能の向上を促す!」
眠たい時の昼寝はNG?
──嫌な記憶を思い出して、消極的なプレイになってしまいそうです。 深い睡眠でネガティブな記憶を精算しておかないと、ミスして嫌だった記憶が定着してし、考える力が低下してしまいます。冷静さやクリエイティブな発想、アイデアなども出にくくなってしまうので、クレバーな選手になるためには、レム睡眠をきっちりリズムよくとれているかということがとても大事になってくるわけです。 ──大谷選手のように睡眠時間を多くとれない場合、たとえば昼間、眠い時に寝てもよいのでしょうか。 私のスリープコーチングでは、「眠たい時に昼寝をする」といったランダムな休息はよくないとお伝えしています。決められたルーティンを作ると、眠たくなるリズムもだいたい決まってきますし、そのリズムに合わせて「この時間帯に15分の仮眠をとる」など計画に入ってきます。ですから、「はいはい、きたきた、いつも通りこの時間に眠たくなってきた」と、計画通り仮眠をとるのはいいのですが、「なんか眠いな。ちょっと寝ようかな」と欲求のままに寝てしまうと、眠りのポイントがバラバラになってリズムが崩れてしまう。アデノシンという睡眠物質の蓄積量に影響が出てきてしまい、夜の睡眠が浅くなってしまうので、仮眠をとるなら計画的にとるようにと伝えています。
日本人特有の“寝てないアピール”
──日本人の平均睡眠時間は世界のほかの国に比べても少ないという調査結果※が出ていますが、なぜだと思われますか。 ※2021年の経済協力開発機構(OECD)の調査によると、日本人の平均睡眠時間は7時間22分で、各国平均の8時間28分より1時間以上短く、33カ国の中で最低。 海外では、「私は毎朝決まった時間に起きて、何時間睡眠を確保しているからこのパフォーマンスが保てる」という意識がはっきりしている。一方、日本は「寝る間も惜しんで仕事をしている」という、いかに睡眠時間を削っているかを比べる「寝てないアピール」が主流です。他の国とは価値観がまったく逆ですから、「なんでそんなに睡眠時間を削っていることが評価されているのかわからない」と言われます。 今は、小学校でも睡眠のことを学ぶようになってきています。「睡眠をとらなきゃいけない」ということが当たり前と育ってきたこの世代が社会に出た時に、その時の経営者層がまだ根性論を主張していると、ギャップが今以上にひどくなると思うんです。そうなった時に、起業する若者がますます増えてくる。そうすると人材確保がさらに難しくなるので、”睡眠観”の差を今埋めておかないと危険だと思います。その価値観を変えていかないと、日本の将来がダメになると思い、睡眠の大切さをコツコツと発信しています。
矢野達人(やの・たつと) アスリートスリープコーチとしてプロ選手から学生アスリートまで幅広く睡眠改善を指導。その他、快眠サロンや睡眠クリニック、快眠温泉旅館や寝具メーカーの運営に携わりながら、睡眠を改善に導くスキルを指導する『一般社団法人オルソスリープアカデミー』の代表理事・講師も務めている。 https://www.instagram.com/tatsutoyano/ https://twitter.com/yanotatsuto ORTHO SLEEP ACADEMY https://sleepacademy.jp/ 文・梅津有希子 編集・神谷 晃(GQ)