ソニーやリブセンス、従業員向け株式報酬 株主総会を「同窓会」に
「今日の株価は220円、前日比1円高です」。求人サイトを運営するリブセンスの社内では、2024年5月ごろからビジネスチャット上で自社の株価が日々投稿されるようになった。従業員が雑談をするチャンネルでも頻繁に株価が話題として取り上げられている。「社員が自社の株価に敏感になってきた。狙い通りの効果が出ている」。村上太一社長はこう満足げに語る。 【関連画像】導入社数は1100社を突破。従業員向け株式報酬制度の導入社数の推移。(出所)野村證券 きっかけとなったのは、同年2月に導入した従業員向けの株式報酬制度「リブシェア」だ。5年間は売却できない「譲渡制限付き株式(RS)」を入社時に一律で付与する。さらに一定の等級・役職以上の従業員は前年の業績などに応じてRSを毎年受け取れる。 「会社や株主の目線を社員も共有してほしいと思った」と村上社長は制度導入の狙いを説明する。上場企業において、会社は一元的には株主のものであり、その委託を受けた経営者も株式価値の向上を目標に取り組む。他方、従業員は会社の重要なステークホルダー(利害関係者)でありながら、これまで会社の価値の上昇(≒株価の上昇)の恩恵を直接受ける立場にはなかった。例えば「春闘」という言葉が象徴するように、主たる収入である賃金は、どちらかといえば年ごとに会社から「勝ち取る」性格のものだったとも言える。 株主や経営者と従業員との間には、容易には越え難い溝がある。これを埋める役割として期待されるのが株式報酬だ。会社が成長した際の恩恵を、株主と経営者、それに従業員の3者がともに受けられるようになれば、経営者がよく口にする「全社一体」という言葉はお題目ではなくなる。「株式報酬は立場の異なる3者が進むべき方向を共有できる船のような存在だ」。HRガバナンス・リーダーズ(HRGL、東京・千代田)の内ヶ﨑茂社長はこう力説する。 ●株主総会を「同窓会」に 従業員向けに株式報酬制度を導入する上場企業の数は増加している。野村証券の調査によれば、導入社数は24年3月末に1100社を突破した。 特に近年は「従業員に対する株式報酬への注目がこれまでにない水準で高まっている」(HRGLのコンサルタント)。背景には大きく3つの要因が挙げられる。人的資本経営への関心の高まりに人材獲得競争の激化、それに自社株の増加だ。 中長期的な企業価値の向上を目指し、人材を「資本」として捉える人的資本経営への関心は高まっている。従業員が資本の出し手であるならば、これを活用して会社が成長した暁には従業員もインセンティブを得るべきだとの考え方が広がりつつある。