楽天モバイルにKDDIの助け舟 3つの未来、「ゾンビ化」シナリオも
「0円プラン」投入や基地局展開を大幅前倒ししたにもかかわらず、契約数が思ったよりも伸びなかった楽天モバイル。その結果、年4000億円以上の赤字を計上し、基地局建設のために調達した社債償還時期も迫り、楽天グループ全体が危機的状況に陥ってしまった。 【関連画像】1か月間の1契約あたりの通信料比較 そんな楽天Gを救ったのが、2023年春にKDDIと結んだ新たなローミング(相互乗り入れ)協定だ。 「KDDIとの新たなローミング契約で、人口カバー率は大手3社と遜色がなくなる。両社(楽天モバイルとKDDI)にとって経済合理性のある契約だ。楽天モバイルとして、可及的速やかに自社ネットワークを構築する必要はなくなった」 楽天Gの三木谷浩史会長兼社長は23年5月の新たなローミング協定の発表時にこう語った。 KDDIとのローミング契約を巡っては、三木谷氏が21年8月「(KDDIの)ローミング費用があまりにも高い」と漏らしたのに対し、KDDIの高橋誠社長が「楽天(モバイル)はエリアを非常に速いスピードで広げると言ってみたり、半導体(不足)で少し遅れると言ったり、ローミング費用が高すぎるなど、いろいろなことを言う。ちょっとどうかと思う」と不快感を示すなど、両者に緊張が走ることがあった。 楽天モバイルは、自社の基地局を展開する費用と、KDDIから借りているローミング費用の「二重投資状態」(株式市場関係者)に陥っていた。その状況を脱出するために、自社基地局展開を大幅に前倒しする手段を選んだはずだった。 それが一転、両者は再び手を結び、結果的にKDDIが楽天Gの窮状を救うことになったのはなぜか。 元楽天モバイル社員のA氏によると、「KDDIとの新たな協定では、これまで対象外だった都市部も対象となり、ローミング費用も破格の安値になった」と打ち明ける。楽天モバイルにとっては、新ローミング協定によって人口カバー率99.9%を達成し、通信品質を一気に改善できる。加えて自前基地局設置のための設備投資を抑えることが可能であり、合理的な判断となる。 実際、楽天モバイルは21年12月期には5000億円前後に膨らんだモバイルセグメントの設備投資額を、23年12月期には2000億円程度と一気に抑えることができた。24年12月期の設備投資額は1000億円を下回る水準まで減らす計画だ。 一方のKDDIは、なぜ楽天モバイルに助け舟を出したのか。 KDDIの高橋社長は23年5月の決算会見で、「我々にとっては5Gが競争領域。(既に展開済みの)4Gネットワークは貸し出したほうが効率的で、5G投資に傾注できる」と打ち明けた。 KDDIにとって楽天モバイルからのローミング収入は、業績を支える重要な要素だった。KDDIは過去数年間において、携帯料金引き下げによる数百億円規模のマイナス影響を、楽天モバイルからのローミング収入によってカバーすることで業績を下支えしていた。ローミング費用の単価を下げてでも、楽天モバイルからのローミング収入を手放したくなかったという事情が見える。 その結果、こうした紆余(うよ)曲折を経て、楽天モバイルは息を吹き返した。