「楽しいことだけやって生きていけたらいいな」の現在地(レビュー)
ボクは10年ほど前、サブカル男は40歳前後になると精神的に病みがちだと提唱する本を出したんだが、過去に「日本一有名なニート」を名乗り、シェアハウスで仲間と楽しく暮らしてきた、ボクよりもっと気楽に見えたphaさん(ボクの8歳下)がこんな本を出すとは思わなかった。 「ずっと右上がりに楽しいことだけやって生きていけたらいいな、と思っていた。/しかし、四十代半ばの今は、三十代の後半が人生のピークだったな、と思っている。肉体的にも精神的にも、すべてが衰えつつあるのを感じる。/最近は本を読んでも音楽を聴いても旅行に行ってもそんなに楽しくなくなってしまった。加齢に伴って脳内物質の出る量が減っているのだろうか。今まではずっと、とにかく楽しいことをガンガンやって面白おかしく生きていけばいい、と思ってやってきたけれど、そんな生き方に限界を感じつつある。/楽しさをあまり感じなくなってしまったら、何を頼りに生きていけばいいのだろう。正直に言って、パーティーが終わったあとの残りの人生の長さにひるんでいる。下り坂を降りていくだけの人生がこれから何十年も続いていくのだろうか」 ……つらい! ただ、気持ちはわかるけど、これまでの人生でパーティーに参加した感覚もない側の人間にしてみれば、彼の場合は30代ぐらいで楽しく生きすぎたせいなんじゃないかって気もしてくるんだが。 「昔は、『何か本を出しませんか』というオファーが年に数件あったけれど、最近はあまり来なくなった。それは出版不況のせいではなく、書き手としての自分の問題だろう」 これも本人が言うように「自分自身がそんなにぱっとしない存在になってきている」のが理由ではなく、単純に出版不況のせいだろうし、この本がちゃんと売れて話題になったことで、とりあえず「ここ数年、貯金は減り続けている」不安だけは一時的になくなるはずなのであった。 [レビュアー]吉田豪(プロ書評家、プロインタビュアー、ライター) 1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズ、『サブカル・スーパースター鬱伝』『吉田豪の喋る!! 道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集』などインタビュー集を多数手がけている。また、近著で初の実用(? )新書『聞き出す力』も大きな話題を呼んでいる。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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