欧州各国の課税強化で超富裕層の国外脱出が相次ぐなか、税優遇措置でお金持ちを受け入れる「スイス」の狙い
イギリスやフランスなど欧州各国は超富裕層に対して所得税の増税などの課税強化策を推進しています。これに伴い国外に脱出する超富裕層が相次いでいます。一方で税制優遇措置で超富裕層を受け入れる国がスイスです。本連載では、富裕層の国際相続の諸課題について解説します。 【第21回】 都道府県「遺産相続事件率」ランキング…10万世帯当たり事件件数<司法統計年報家事事件編(令和3年度)> 2023.02.07
富裕層課税強化の世界的動向
フランスのミシェル・パルニエ首相は2024年10月、法人税率の引き上げと年収50万ユーロ(約8,000万円)以上の世帯に所得税増税をする案をTVのインタビューで話しました。 イタリアは2024年8月、同国に移住した富裕層の国外所得に一律に適用している「フラットタックス」の税率を2倍に引き上げて年間20万ユーロにしました。 イギリスも労働党に政権が交代し、超富裕層へ課税強化する方針です。 また、2024年7月にブラジルで開催されたG20財務相・総裁会議において、議長国のブラジルは、フランスの経済学者ガブリエル・ズックマン氏に委託して作成された報告書に基づいて、10億ドルを超える資産に対する年間2%の税率導入を提唱しました。 この会議では大手IT企業に対する「デジタル課税」を国際間の課税ルールとすることが取り決めました。そして超富裕層についても、今後課税を強化することで一致しました。
フランス富裕層の国外脱出
フランスでは、多くの超富裕層が国外に脱出する事件が起こりました。フランソワ・オランド前大統領の時です。 オランド前大統領は、2013年からは2年間の時限措置で年収100万ユーロを超える個人の所得税率を40%から75%に引き上げる案を示しました。この税は2015年に廃止されました。オランド大統領は、この税の導入を大統領選挙の公約としてサルコジ大統領を破って当選しました。 この税制改正の結果、フランスの富裕層の100人以上がフランスの隣国のベルギーに移住しました。日本と異なり、国境を接している国が多く、またEU域内であれば、国境を越えて通勤することも可能です。例えば、オランダでは、朝になると隣国に働きに行き、夕方になるとオランダに帰る労働者がいます。 フランスから脱出した富裕層は、隣国からフランスに通勤することが可能です。日本でいえば、東京の会社に新幹線通勤をするイメージです。 富裕層の国外移住の結果、通常、取引の少ないパリの高級住宅あるいは地中海沿岸の別荘地が売りに出されました。オイルマネーで資金力のある中東の超富裕層がこれらを購入したようです。 国外脱出に際して大きく報道されたのが、フランスの俳優のジェラール・ドパルデュー氏でした。彼はロシアに移住して国籍を取得しました。ロシアを選んだ理由は、彼がプーチン大統領の支持者であったからです。プーチン大統領はこれを政治的に利用して、彼に国籍を与えるセレモニーを実施しました。 ですがロシアがウクライナに侵攻した際、ドパルデュー氏はこの侵攻を非難しています。 フランスは富裕層の国外移住に離国税を課す制度があります。日本の出国税と同様です。国外に転出する場合、所得税を課税するというものです。しかし離国税は、フランス居住者が他のEU加盟国の居住者となる場合には課税されません。
【関連記事】
- 相続税のないシンガポールへ移住したい…相続人・被相続人の海外移住5年→10年で計画が頓挫した富裕層たち
- 日本居住だと所得税が納税できない、まさかの事態に…フリーランスのブロックチェーンエンジニアが「バンコク移住」を選択した必然的理由【弁護士が解説】
- 日本と比べてかなりの違い…米国のとてつもない遺産税控除額、2002年100万ドル→2024年1,361万ドルに、トランプ政権で急拡大
- 私も隠し子だと相続人として名乗り出る人たち…プリンス、マイケル・ジャクソン、エルビス・プレスリー、桁違いの故人所得にびっくり
- 世界的に注目を集めたふたつの国際相続、サムソン電子前会長とベルルスコーニ元首相の巨額相続税を比較する