『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』レガシーを乗り越える宿命を背負った新章
『新たなる希望』の反復
『フォースの覚醒』は非常に懐古的な作品といえる。偉大なる第1作『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(77)を、ストーリーの面でも、構成の面でも、そして演出の面でも踏襲。ルーカスが「彼らはレトロな映画を作りたがっていた」と語ったのは、『フォースの覚醒』が『新たなる希望』の反復であると捉えたからだろう。 惑星ジャクーの村がファースト・オーダーに襲撃され、ポー・ダメロン(オスカー・アイザック)がドロイドのBB-8に秘密のメッセージを託す冒頭のシークエンスは、『新たなる希望』で輸送船が帝国軍に拿捕され、レイア(キャリー・フィッシャー)がR2-D2にメッセージを託す場面と酷似しているし、両作品に登場するミレニアム・ファルコンとTIEファイターとの空中戦には、同じような構図が散見される。 惑星タコダナでマズ・カナタ(ルピタ・ニョンゴ)が営む酒場は、惑星タトゥーインのカンティーナ酒場を彷彿とさせるし、ファースト・オーダーの本拠地である惑星型要塞スターキラーは、まんまデス・スターだ(ちなみにスターキラーという名称は、企画段階でのルーク・スカイウォーカーの名前でもある)。ディズニーは偉大なフランチャイズを再起動させるにあたって、ガッツリ『新たなる希望』をリファレンスしたのである。ファンが求めているものを正確に把握し、制作し、供給することもまた、エンターテインメントの正しいあり方ともいえる。 もちろん『フォースの覚醒』は、ノスタルジーを喚起するだけのリサイクル映画ではない。J・J・エイブラムス監督は『新たなる希望』に酷似しすぎているという批判に対し、「これはノスタルジー劇ではない。私は、“自分たちが知っている『スター・ウォーズ』に戻ろう、そうすれば別の物語を語ることができる”と感じていた」(*4)とコメントしている。枠組みとしてはオリジナル・トリロジーに準拠しつつ、フレッシュなストーリーを奏でようとしたのだ。TIEファイターの攻撃にあうシーンで、フィンがミレニアム・ファルコン号で反撃しようと言うと、レイは「あんなポンコツ!」と一蹴する。レガシーをリスペクトしつつ、それだけに頼ろうとはしない制作サイドの気骨が垣間見えるようだ。 特にフィンは、新しい神話にふさわしいフレッシュなキャラクター。なにしろ彼は、FN-2187という識別番号を与えられた元ストームトルーパーで、ファースト・オーダーの非人道的な行いに嫌気が差し、レイたちと共闘するという設定。<戦争>がタイトルに冠された『スター・ウォーズ』という作品で、「誰も殺したくない」と逡巡する彼は、極めて現代的なヒーロー像のように感じられる。 何より持ち前の快活さと溌剌さで、フィンは『フォースの覚醒』に上質なユーモア感覚を持ち込んだ。もちろん、次世代のルーク・スカイウォーカーとしてのレイ、腕利きパイロットのポーも最高 of 最高。怒りが爆発すると、ライトセーバーで当たり散らすカイロ・レンの中二病っぷりもたまらない。 かつてのヒーローたち…ルーク、レイア、ハン・ソロを後景化させ、レイ、フィン、ポーという新しいヒーローたちを前景化させることで、『フォースの覚醒』は“古き良き第1作の匂いを感じさせる、新しい物語”という命題をクリアしたのである。