『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』レガシーを乗り越える宿命を背負った新章
シリーズに通底する、象徴的な殺人
『フォースの覚醒』には、『帝国の逆襲』、『ジェダイの帰還』で共同脚本を務めたローレンス・カスダンが参加している。彼はマイケル・アーントが執筆したオリジナル・ストーリーをリライトし、オリジナル・トリロジーが有していた空気をニュー・チャプターに持ち込んだ。インタビューでも、「私たちが求めていたのは、最初の3部作のように楽しくて、愉快で、やたら動き回るような、あまり多くを疑わない感覚だった」(*5)と述懐している。 そしてカスダンは、『スター・ウォーズ』において最も重要な通過儀礼…<父殺し>を、シークエル・トリロジー第一幕から描いてみせる。ハン・ソロ(ハリソン・フォード)が息子のカイロ・レンによって殺されるという、衝撃的な展開。ダース・シディアス(イアン・マクダーミド)、ダース・モール(レイ・パーク)、メイス・ウィンドゥ(サミュエル・L・ジャクソン)のように、“落下して死ぬ”という描写も、シリーズに共通するモチーフだ。 思えばルーク・スカイウォーカーは、『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』(80)でダース・ベイダーに右腕を切り落とされ、『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』(83)では逆に相手の右腕を切り落とすことで、父を乗り越えた。だが彼は、ダース・シディアス(イアン・マクダーミド)の「父を殺せ」という悪魔の囁きには乗らず、剣を収める。しかし中二病息子カイロ・レンは、自分の迷いをふりはらうため、父親をライトセーバーでひと突き。「ありがとう」と感謝を述べながら、その手で命を奪う。モチーフだったはずの<父殺し>が、実際の行動になってしまった。 実は、オリジナル・トリロジーでハン・ソロが死を迎えるプランも考えられていた。ハリソン・フォードが、「彼を殺した方が物語に深みが出る」と主張していたからだ。カスダンもそのプランに賛成し、三部作を締めくくる『ジェダイの帰還』でその場を設定しようと考えたが、ルーカスが強硬に反対。はからずもハン・ソロは“長生き”することになってしまう。 果たしてハン・ソロは死ぬべきか、死なざるべきか。その最終的決断は、ディズニーCEOのボブ・アイガー、監督のJ・J・エイブラムス、ルーカスフィルム社長のキャスリーン・ケネディに委ねられ、シリーズに通底する象徴的な殺人が実行されることになる。レガシーを乗り越える宿命を背負った新章は、旧シリーズをリファレンスしつつ、旧シリーズのメイン・キャラクターを葬ることで、21世紀型の『スター・ウォーズ』を提示したのだ。 間違いなくこの作品には、製作者の並々ならぬ覚悟がある。 (*1)、(*3) https://www.hollywoodreporter.com/news/general-news/george-lucas-quips-he-sold-851545/ (*2) https://comicbook.com/starwars/news/disney-ceo-bob-iger-star-wars-george-lucas-upset-betrayed-sequel-trilogy-wouldnt-follow-his-plots/ (*4) https://www.rollingstone.com/tv-movies/tv-movie-news/star-wars-jj-abrams-secrets-of-skywalker-912362/ (*5) https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-news/star-wars-lawrence-kasdan-talks-841911/ 文: 竹島ルイ 映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」( http://popmaster.jp/)主宰。 『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』ディズニープラスにて配信中 (C)2024 Lucasfilm Ltd.
竹島ルイ