【実例集】「盗まれた!」「帰る!」の妄想に、認知症の人が納得して落ち着く「寄り添う言葉」
「自分だけが選ばれた」というプライドを上手にくすぐる
認知症になると入浴をイヤがるケースが多くなります。元看護師のエイコさん(75歳)のケース。最近、トイレの失敗が多くなってきました。部屋に尿臭が漂うので、押し入れを調べたら汚れた下着が出てきました。家族が、部屋が臭いこと、下着を見つけたことを伝えてリハビリパンツを穿くよう求めたところ、「あんたが穿けば!」と激怒しました。本人は失禁などしていないつもりで、下着を隠した記憶もないのに「おもらしした」と言われ、プライドが傷ついたのです。 デイサービスの職員は、薄手のリハビリパンツを見せて「保健所から新製品の調査依頼があったので、使ってもらえますか? 看護師さんにお願いするのがいちばんいいと思うので」と勧めてみました。そうすると、「あら、アンケート調査ね」とすんなりと受け入れてくれたのです。自分が選ばれてプライドをくすぐられたようです。 トシオさん(70歳)は糖尿病で、毎日服薬するよう医師から指示を受けています。本人はイヤがっていましたが、しぶしぶ飲んでいる状態でした。ところが認知症になってから「薬嫌い」の本性が出始め、どうしても薬を飲んでくれません。困った家族はトシオさんが部分入れ歯を使っていることに目をつけて、「これは歯が丈夫になる薬なのよ」と言ってみたところ、飲んでもらうことができました。 別のお年寄りのケースでは、家族が錠剤をきれいな色のマーブルチョコと交ぜて、「みんなに内緒で食べない?」とこっそり渡したところ、口にしてもらえました。ほかにも、ビタミン剤や栄養剤だと伝えて引き算する方法がありますが、「内緒」という言葉は効果的です。「自分だけ」とか「選ばれた」という感覚になるのでしょう。 後編記事〈【実例集】「運転」「火の元」が心配ならこの一言……認知症のお年寄りとうまく折り合える「言葉かけ」〉に続く。
右馬埜 節子