総務省、NTT法の見直しや公正競争を巡り4社トップにヒアリング
総務省の情報通信審議会 電気通信事業政策部会 通信政策特別委員会は29日、第17回会合を開催した。 【この記事に関する別の画像を見る】 今回の第17回会合では、通信事業者のNTT、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの4社からのプレゼンテーションと質疑応答が行われたほか、NTT法に関する議論や、ワーキンググループの報告書案に関する各社の意見や主張が交わされた。 ■ NTTのプレゼンテーション NTTは、島田社長が出席してプレゼンテーションを行った。島田社長は、基本的な考え方として報告書案で示された、ユニバーサルサービス責務の最終保障提供責務への移行、ユニバーサルサービスにおける無線の活用、NTT東西の業務範囲に関する規制緩和について、賛同する意向を示した。 その上で、報告書案で継続検討とされている事項については、市場構造・競争環境の変化を踏まえつつ、継続的に検討を行うことが重要と語った。 一方で、線路敷設基盤の譲渡などを認可制とすることや、累次の公正競争条件の法定化などについては、現行ルールで担保可能であるため、規制強化を行う必要は無いと主張した。また、仮に規制強化の方針で見直しをする場合でも、NTTおよびNTTグループの効率的な経営を阻害しないように、最低限の規制を望む。 ユニバーサルサービスについて、現在は屋内の固定地点の電話利用に限って保障範囲となっている。報告書案では、保障対象を固定電話のみとしながら、その提供方法に無線を活用する方針が認められるとして、賛同を示した。 今回の見直しにより、今後縮退が予定されているメタル回線の代わりにモバイル網や光を活用すること、携帯電話事業者などNTT東西以外の事業者も含まれることで、効率的かつ持続可能にユニバーサルサービスを支えられるようになる。さらに、将来的には、利用者の利用実態を踏まえて、屋外の居住エリアを含めて保障対象とするか、継続して議論が必要とした。 ブロードバンド(高速インターネット通信)の世帯カバー率100%の実現を目指すとともに、その実現に向けてワイヤレス固定ブロードバンド(共用型)など、モバイル網をさらに活用する方針に賛同する意向を示した。 電話とブロードバンドにおいて、NTT東西が最終保障提供責務を履行するにあたって、電話・ブロードバンドともに、整備や維持費について必要十分かつ過大でない補填を制度的に担保することが前提とし、整備費の支援や交付金の詳細については今後の検討事項ながらも、持続可能な仕組みとなるように議論・設計して欲しいと、要望を述べた。 公正競争に関する考え方では、NTT東西の業務範囲規則が緩和される方針について「非常にありがたい」とした上で、こうした規則が見直しされることで、地域産業の活性化や地方創生の推進により一層貢献することを目指すという。 報告書案では、それぞれの論点で継続議論となる項目がまとめられた。たとえば、NTT東西はこれまでも不断のコスト削減を続けてきたものの、固定電話の需要減少や光サービスの成長鈍化、経営環境がますます厳しくなっていると最近の経営環境を説明した上で、今後のネットワークの維持や高度化などを担保するには、更なる抜本的なコスト改革が必要であり、その実現に向けてNTT東西の統合が可能となるように、早期の見直しを要望した。 また、規制強化の方向性が示された項目については、現行の電気通信事業法や各種ガイドラインなどのルールに加え、市場検証会議における検証を通じて担保可能であるとして、規制強化は不要と主張した。仮に、規制強化をする場合には、NTT東西の経営の自由度が阻害されないことを前提に、規制対応コストにも配慮していただきたいと要望した。 経済安全保障の確保にあたっては、携帯電話事業者が大量の顧客情報、位置情報、通信履歴などの情報や重要な設備を保有することや、対日投資を促進する政府方針を踏まえると、個別投資審査による評価が合理的とした。また、今後の国際的な規制動向を踏まえた上で継続議論をしてほしいと要望した。 最後に、島田社長は今回の見直しによってユニバーサルサービスとNTT東西に係る業務規制については、同社の提案内容が反映されているとして謝意を示した。また、その他の論点についても継続検討する方針についても賛同するとした。 ■ KDDIのプレゼンテーション KDDIは髙橋誠社長が出席しプレゼンテーションを行った。 髙橋社長は、これまでの審議会やWGでの共通認識として、NTT持株およびNTT東西の特別な資産と公共的役割は、公正競争やユニバーサルサービスの観点から担保すべきという方向性が示され、1985年に日本電信電話が民営化されるなど環境が変わっても、「通信の安定的な提供」は変わらずに重要でありながら、民間企業では構築できない巨大インフラに対して、現在のNTT法ではその保護が不明確であると課題を指摘した。 ワーキンググループの報告書案に対しては、NTT東西が保有する、電柱、とう道、局舎、土地など線路敷設基盤の譲渡・処分を認可対象としたことや、支配的な事業者であるNTT東西・NTTドコモとグループ合併審査の強化などの点について、賛同を表明した。 また、安全保障の確保の点から、NTTに対する外資総量規制の維持および、NTTの外国人取締役登用規制は継続検討、国によるNTT株式の保有も必要としながら賛同を示した上で、NTT法については維持が必要とした。その理由として、NTTの特別な資産は、日本のあらゆる通信の基盤であり、経済と国民生活を守るためにNTTの経営と資産の保護をあげている。 参考として、NTT東西やドコモがJTOWERに売却した鉄塔が、外資に流出する例があった。NTTグループがJTOWERに売却した鉄塔は、NTT東西は207基、NTTドコモが7554基にのぼるという。髙橋社長は、重要インフラに対して外資がコントロールすることは脅威であり、問題があると懸念を述べた。 ユニバーサルサービスの確保に対する考え方は、ブロードバンドに対する最終保障提供責務に関する規制が新たに規律されることや、電話とブロードバンドの最終保障提供責務はNTTが担うことについて、賛同を示した。この理由として、光ブロードバンドの整備と維持、日本経済と国民生活の原動力であり、全国レベルでインフラを持つNTTのみが整備可能であると主張した。 髙橋氏は、特別な資産と公共的役割をもつNTTとNTT東西のふるまいは、特別法であるNTT法による規律が必要とした。その理由は、電気通信事業者ではないNTT持株に対して公共的役割の規律が必要であり、設備競争に必要な構造的な措置は一般の事業法では担保できないと、NTT法の廃止に反対とアピールした。 最後に、次代の変化に即したアップデートが必要であり、緩和すべき点については既に第1ステップで改正済みだが、規制を強化すべき点については第2ステップで見直しすべきとし、ワーキンググープでの議論を踏まえると、NTT法廃止という論拠が見当たらないのではないか、と主張した。 ■ ソフトバンクのプレゼン ソフトバンクは、宮川社長が出席しプレゼンテーションを行った。 宮川氏は、これまでの審議会において「特別な資産」を持つNTTの特殊性と、それに基づく規制の必要性が改めて認められたことに謝意をしめした。 そのうえで、メタル回線から光ファイバへの転換と、次世代のユニバーサルサービス制度へ移行し、NTTが引き続き公的な役割を担うことに賛同するほか、次世代のユニバーサルサービスの基盤となる、光ファイバと、これを支える線路敷設基盤(電柱、局舎、土地など)を新たに保護対象とすることに賛成する方針を示した。 また、こうした特別な資産を守る目的で、外資総量規制に対しても賛成している。宮川氏は、特別な資産には該当しないと思われるが、と前置きした上で、NTT東西やNTTドコモが行ったJTOWERへの鉄塔売却と同様に、万が一特別な資産が外資に流出し得るとすれば、特別な資産に対する譲渡や担保は原則禁止すべきと訴えた。 公社時代から全国津々浦々に存在するNTTが売却見込みのノンコア資産についても、その詳細を明らかにしたうえで、短期目線ではなく長期的な日本における通信の将来を見据え、売却の是非を第三者の目線で検証すべきと、安易な資産売却には反対する方針を示した。 さらに、最近価格が高騰しているメタルケーブルについて、売却益がでることは結構で、光ファイバの施設などに充当するなら大歓迎だが、これが赤字の補填に使われないことを望むとし、その使途について適正性をすべきと主張した。 法整備に関しては、NTT法による構造規制と電気通信事業法による行為規制を行う方針について賛同とした。また、2020年にNTTがNTTドコモを100%子会社化した事例について、一方的な報道で知ったと説明した上、NTTから移動体通信部門が分離した際の政府方針には法的な拘束力が無かったことが原因とし、「政府方針が一方的に反故された事例」であるとして、実効性担保のための法整備が必要と訴えた。 ソフトバンクの外部弁護士による見解では、NTT法と電気通信事業法は、法の趣旨や目的が異なり、NTT法を廃止して他の法律へ統合する根拠が存在せず、統合によって解決すべき課題が存在しないと主張した。さらに、日本全国のMNO、CATV、ISP、電力系の通信事業者など181者が、NTT法の廃止には反対であるとし、多くの通信事業者がNTT法を存続すべきと主張する旨を訴えた。 ■ 楽天モバイルのプレゼン 楽天モバイルは、三木谷社長が出席しプレゼンテーションを行った。冒頭、三木谷社長は「基本的には(KDDI)髙橋社長、(ソフトバンク)宮川社長と全く同意見」と、NTT以外の3者が足並みを揃えているとアピールした。 楽天モバイルは、近年は物価高騰による生活への影響も大きいが、2020年と比べた物価指数は、「交通・通信」のカテゴリーでは、2020年の物価を100として3.1下落、通信カテゴリーに限定すると28.5下落したという。 これは、NTTの持つ特別な資産を、楽天モバイルが適正な価格で利用できるという制度があったからこそなし得たとして、こうした競争がうまれる制度を、今後も維持することが必須であるとアピールした。こうした競争による事例を踏まえ、ワーキンググループでのこれまでの議論について賛同する方針を示した。さらに、NTT法は廃止ではなく維持・強化すべきと主張した。 NTT法の廃止に反対する具体的な理由として、NTTの「特別な資産」の保護について、日本電信電話公社時代に作った設備が、現在価値では40兆円程度に試算されるとして、これらは国民の共有財産であると主張した。これらの特別な資産は、国民の資産として政府が守ることが大前提とした。 そして、NTT法の廃止は、圧倒的な力を持つ「大NTT」の復活をまねき、公正な競争環境が一気に崩壊してしまうと懸念を示した。実際の事例として、NTTドコモがNTTに完全子会社化された際は、極めて拙速なプロセスでこれまでの議論が覆されてしまったと問題点を挙げた。 最後に、特別法であるNTT法と、一般法である電気通信事業法は趣旨も目的も全く違うものであり、これを統一することは本来の枠組みが成り立たなくなってしまう、と課題を挙げた。 ■ 質疑応答・意見交換 <林委員からの質問> NTTは、規制強化の方向性が示された項目について、現行のルールおよび市場検証会議における検証で担保可能であり、規制強化を行う必要はないと主張しており、その対象には線路敷設基盤とグループ内での合併などに関する審査制度が含まれるが、これらは現行ルールでは十分に手当がされていないものと理解している。 NTTの説明では、市場検証会議で担保可能と主張するが、市場検証会議は既にある制度に対して制度が実効的に機能しているかをモニタリングするのが主目的であり、まだ存在していない制度を市場検証会議で検証するのかが不明確に感じる。この点について具体的な考えを教えて欲しい。 <NTT 島田社長の回答> 線路敷設基盤の譲渡などに関する認可制については、技術の進展につれて基盤が変化している。古い例ではマイクロ波の中継局舎がある。かつては基盤だったが今はそうではない設備は未だにその整理を続けているなど、通信方式が移り変わってる設備についても規制対象となってしまうと、新たな技術に投資をしにくいという事情があるので、そういった点を配慮いただきたい。 メタル回線の撤去はこれから実施していくことになるが、メタルの撤去に伴って電柱などの撤去も必要になる。電柱を残してしまうと老朽化などの点から危険が残る。支障移転を行っているが、行政上の手続きについても手間やコストがかかる点についても配慮頂いた上で制度設計をして頂きたい。 また、グループ内での合併などの審査については、報告書案に記載されているような禁止行為規制を潜脱するような再編を現在考えているわけではない。そもそも、グループの再編についてはグループ全体の経営判断で行うものであり、必要以上に規制を入れて頂きたくないと考えている。仮に見直しが行われる場合でも、必要最低減に留めていただきたい。 <林委員からの質問> KDDIも、NTT同様にユニバーサルサービスの最終提供保障への移行について賛同を示したが、これまでKDDIもNTT法に規定する電話のあまねく提供責務の維持を主張していたと記憶するが、これまでの立場と方針が変わったのか教えて頂きたい。また、JTOWERが外資に買収されたことによるリスクに関して、NTT東西とNTTドコモでそのリスクに違いがあるのか、その二点についてお答え頂きたい。 <KDDI 髙橋社長の回答> あまねく提供義務から最終提供責務に変わった点については、最終提供責務に変わっても、NTT東西が撤退禁止を伴う特別な責務を負うと定義されているため、その点については賛同している。加えて、固定ブロードバンドの最終提供責務についても強化すると記載されているため、複合的な点からワーキンググループの趣旨に賛同している。 もう1点、JTOWERの件については、NTTドコモさんの場合については都市部の商業ビルや山間部等に建設した鉄塔であれば、安全保障のリスクは比較的小さいと考えているが、一方でNTT東西の局舎においては、安全保障上のリスクがあると考えている。この部分については看過できないものがあると考え、NTTドコモと東西についてはわけて考えている。個別の局舎については知り得る立場にないが、こうした可能性があるのではないかと考える。 <委員不明> NTTドコモの基地局の調達について、国産優先から海外調達を増やすという報道があった。これは電気通信技術に対するNTTや我が国の国際競争力の強化からは逆行するが、NTTの見解を教えて欲しい。 <島田社長> 我々が発言して記事になったわけではなく、メディアが勝手に書いている。という側面もあるが、NTTとしては内外無差別で、品質が良いものやコストが安いものを調達していく。事実関係として、都市部では特にトラヒックが増大しているが、Massive MIMOと言われるような基地局を、現実問題として提供できる国内メーカーが存在しない。なので、どうしても海外メーカー製の基地局を使わざるを得ない状況である。ただし、国内ベンダーも開発に取り組んでおり、開発が完了したあかつきには国内メーカーのものも使いたい。なので、外資メーカーに転換したというのは事実誤認である。 一方で、5Gについては海外メーカーがグローバルでシェアを占めるなど優位にあるのは事実であり、国内メーカーについても頑張って欲しいと伝えている。また、次世代のvRANについては、日本メーカーの設備が使えることを期待している。 <委員不明> 今回報道があったメーカーは研究所を閉めてからかなりの年月が経過している。既に技術力を失っているのではないか、NTTも共同して最新技術の開発に協力するなど技術移転強化や、日本国内の開発能力の向上にも寄与していただきたい。 <島田社長> 初期の5GのRAN設備については、Massive MIMOに対応できないものもあるため、そういった部分は新しいものに替えていかなくてはならない。新しいものは日本メーカーでも開発を頑張っているメーカーもあるので、そこはNTTとしても支援していきたい。 <神奈川大学 関口博正委員> JTOWERの買収の件について問題提起があった。通信インフラの売却について、今後は総務省が何らか関与することが可能となるが、既に売却されてしまった設備が外資にコントロールされないための施策があるのか? <島田社長> JTOWERに売却したドコモの鉄塔は、もともとの契約が耐用年数の範囲内で我々が使えるという契約。この契約内容を買収先でも引き継ぐという面では、利用の問題や料金の問題はない。セキュリティについても、彼らだけで局舎の中を歩き回って鉄塔に登れない仕組みのため、問題は無いと考えている。 <髙橋社長> 担保措置はしっかりとってほしい。鉄塔会社のビジネスモデルは、賃料を恒常的に上げていくスタイルと推測する。米国でもそういう事例がある。KDDIも大規模なモール内などでJTOWERに借りているが、新しい外資の会社によって継続的にコストが上がっていくことを懸念している。「利用できる」ということと、その条件が変わってくることは別問題なので、しっかりと対策をとって頂きたい。 <ソフトバンク宮川社長> NTTの特別な資産がJTOWERの例と同じように外資に流出しないようにして欲しい。米国で起きている事例では、エネルギーが確保できている場所や、通信のケーブルに近い場所というのが重要なアセットに変わりつつある。これを、ノンコア資産だからといって売却してしまうのは懸念がある。JTOWERの事例についても先読みができていなかったと言える。 <大谷和子委員> JTOWERが行うインフラシェアリング事業は、人口減少時代に効率的なインフラ投資を行うために有益であると考えている。ただし、売却をコントロールする問題はある。外資に頼らずに国内でこの種の事業を継続することが望ましいと言える。どのような制度的措置があれば良いのか、国土全体についての政策という面で、通信政策の枠を超えた議論が必要ではないか。
ケータイ Watch,島田 純