最新研究で見えてきた、腸内細菌と老化・長寿の深い関係(専門家が監修)
「生物学的年齢」という新たな年齢の指標
老化は自然現象ではなく、もはやひとつの病気として捉えられている。世界中の研究者が老化治療薬の開発に取り組んでいるのはそのためだ。 そこで注目されているのが生物学的年齢という目安。これまでの年齢の指標は暦によるものだったが、そうではなく臓器や身体機能の低下から年齢を捉えようという考え方だ。なにより生物学的年齢は健康状態や死亡リスクをより正確に反映する。 「暦の年齢は一生変えることができませんが、生物学的年齢は若い人は若いし老けている人は老けています。これからの人の年齢は暦ではなく、科学的な老化速度から推定すればいいのではという考え方です。 生物学的年齢が今80歳とします。このまま行くと早く寿命が尽きるのでライフスタイルを改善して今のうちに若返っておきましょう、となるわけです」 歩行速度や握力、バランス能力や認知機能など老化速度を測る指標はいくつかあるが、腸内環境もそのひとつとされる日が来るかもしれない。いや、もうすぐそこまで来ているはずだ。
ある種の腸内細菌がヒトの寿命のカギを握る?
さて、前述の早老症マウスの実験にはまだ続きがある。欧米の百寿者(100歳以上の人)に多いとされる腸内細菌を早老症マウスに投与したところ、やはり寿命が延びることが確認されたという。 その菌の名はアッカーマンシア・ムチニフィラ。もともとはこの菌、肥満や高血糖の人の腸には少ないことが分かっていて健康作用が期待されていたが、ここにきて寿命研究のニュースターとして注目を浴びるようになった。 さらにこの菌が寿命に関わる二次胆汁酸の生成に関わっていることも明らかになっている。ならば早い話、この腸内細菌を増やせばいつまでも若々しさを保つことができるかも! でも、残念。アッカーマンシア・ムチニフィラは日本人の腸にはほとんど存在しないのだそう。 「ただ、日本人の百寿者の人たちの腸内では胆汁酸の新しい代謝物が見つかっています。腸内細菌の名は違っても胆汁酸を代謝する遺伝子の菌を持っていれば、健康で長生きできる可能性はあるということです」 日本独自の長寿菌に期待したい。
取材・文/石飛カノ(初出『Tarzan』No.864・2023年9月7日発売)