最新研究で見えてきた、腸内細菌と老化・長寿の深い関係(専門家が監修)
腸内環境と老化や寿命の関係は今最もホットなトピックスのひとつ。人生100年時代、いかに健康な状態で人生を全うできるかが人々の課題となりつつある。最新の研究でわかってきた腸内細菌と寿命、老化の関係とは?[監修/内藤裕二]
年寄りネズミが糞便移植で若返った
「腸内細菌と長寿の研究は今すごい勢いで進行しています。動物レベルならもはや腸内細菌によって若返ることができる時代。 たとえば年老いたネズミに若いネズミの糞便を移植すると、握力や筋肉、肌の水分量が増えて脱毛が見られなくなる。明らかに見た目が若返ることが証明されています」(腸内微生物学の専門家、京都府立医科大学の内藤裕二教授) きっかけとなったのは2019年に発表されたある論文。遺伝的に寿命が短い早老症のマウスの腸に正常なマウスの糞便を移植したところ、寿命が延びて低血糖や血管の線維化などの老化現象も軽減されたという。 糞便移植の目的はすなわち腸内細菌の移植。腸内細菌叢を変えることで、遺伝によって決定づけられている寿命さえ延ばすことができる? 答えはどうやらYES。 また、フィンランドで行われている研究では、「腸内細菌叢を分析すればその人が15年以内に死亡するリスクを予測できる」といった記事が科学雑誌『サイエンス』で発表されている。 今後は理想的な腸内環境を手に入れることが健康長寿の最大のカギになりそうだ。
若返りの秘密は胆汁酸の代謝物にあり
では年寄りネズミはなぜ若返ったのか? 内藤教授はその理由が胆汁酸の代謝にあるという。 「肝臓で作られる胆汁酸は脂質を包み込んで小腸からの吸収を促す物質。最初は自らの毒性を防ぐためアミノ酸がくっついた“抱合体”という形で肝臓から十二指腸に分泌されます。 でも、この形では作用しません。実は腸内細菌が胆汁酸を代謝して活性化することで、初めて本来の働きをします」 生き物は自力では胆汁酸にくっついたアミノ酸を外せないので腸内細菌の助けを借りるしかない。実際、無菌マウスは脂質を吸収できない。コテコテの家系ラーメンもとんかつも腸内細菌なしにはお腹をこわす原因になるだけなのだ。 こうして活性化されたものが一次胆汁酸で、さらに別の腸内細菌がこれを代謝して二次胆汁酸に変換する。で、何を隠そうこの二次胆汁酸が寿命延長に関与している可能性があると考えられているのだ。 根拠は、早老症のマウスの腸には二次胆汁酸が少なく、正常マウスの糞便移植をするとその量が増えたということ。まさに「二次胆汁酸」は若返りのキーワード。