闇に包まれた「82人の死」――混迷ミャンマー、命がけで真相を語る市民たち
軍による市民の大量殺害があったのではないか――。今年4月、ミャンマー中部の町・バゴーでは、軍の弾圧で市民82人が亡くなったとされる。しかし軍側の発表は「暴徒1人が死亡」。果たして真実はどこにあるのか。今回取材班は、ウェブ上に市民たちとの新たな「回路」を開き、現地映像や写真を収集。弾圧からの生存者証言も得た。ブラックボックス化するミャンマーから発信された、「真相を伝えたい」という切なる願い。ミャンマーの今に迫った。(取材・文:NHKスペシャル「混迷ミャンマー 軍弾圧の闇に迫る」取材班/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
「82人の死」その真相は闇に
「バゴーを助けて!(Save Bago!)」。2021年4月9日、SNS上にミャンマーの人たちの悲痛な叫びがあふれた。 ミャンマー現地の人権団体「AAPP」(政治犯支援協会)などの発表からわかったのは、4月9日に軍に対する抗議活動をしていた市民たち82人が、ミャンマー中部の町バゴーで命を落としたということだけだった。バゴーは最大都市ヤンゴンからおよそ65キロの距離にあり、ヤンゴンと首都ネピドーを結ぶ交通の要衝だ。ミャンマーでは、軍が抗議デモの参加者への取り締まりを強め、市民に銃口を向けることが常態化している。しかし一つの町で、一日に80人もの犠牲者が出るのは初めてのことだ。
軍は9日の夜、国営メディアを通じて、市民たちを“暴徒集団”と呼び、こう発表した。 「暴徒集団側の男性1人が死亡、男性2人が負傷した」 事件から数日たっても、犠牲者の多くの身元や名前など事件の詳細は伝わってこなかった。ミャンマーの人たちがよく使うFacebookやTwitterで現場映像などを検索して見つかったのは、写真も含めてわずかに20本ほど。ミャンマーの弾圧現場では目撃者が即座にSNSに動画を投稿する傾向にあり、82人も亡くなったのであれば、100本単位の動画があってもおかしくない。ミャンマー国内の人脈を頼って事件の目撃者を知る人を捜し出したところ、町全体が軍の監視下に置かれ、現地からの情報発信が非常に困難であることがわかった。 「現地には軍の雇った密告者がたくさんいます。密告され、内臓を抜き取られて遺体で戻ってきた人もいると噂で聞きました。メディアに話すことも命がけなんです」(バゴー出身30代女性) 「事件を生き延びた人たちは指名手配されて身動きがとれない状態です。町中では毎日、軍や警察が抗議デモ参加者の捜索を行っています。若い男性はほとんどが捕まり、あとは身を隠しています」(バゴー出身50代女性)