米軍の「イスラム国」空爆作戦は効果あるのか /軍事ジャーナリスト・黒井文太郎氏
今年6月にイスラム国がイラクで勢力を大幅に拡大したことを受け、アメリカは8月8日、その進撃を止めるために空爆を開始。続いて9月23日には、シリア国内でも空爆に踏み切りました。こうした軍事作戦は効果は出ているのでしょうか。
シリアにも空爆を拡大した米軍
イラク空爆開始の時点では、イスラム国は首都バグダッド郊外に迫っていたうえ、北部でも第2の都市モスルを占領し、さらにクルド自治区に攻めこんでいました。そのまま放置すれば、イラク全体がイスラム過激派の手に落ちる可能性もありました。そうなればイラクがテロの温床になることは明白ですし、アメリカとしては、なんとしてもそれは避けなければならない局面でした。 シリアの場合は、その延長です。イスラム国はイラクとシリアの両国で勢力を伸ばしていましたから、イラク国内で叩くだけでは彼らを弱体化できません。アメリカとしてはシリアでもイスラム国を弱体化させる必要があったわけです。 それに、イラク空爆をもってアメリカとイスラム国は全面的な戦争状態に入っていますから、イスラム国は事実上の対米戦を表明し、アメリカ人の人質の処刑まで行いました。それでアメリカ国内では、イスラム国を危険視する世論が高まり、それまでシリアでの軍事介入に消極的だったオバマ大統領も、強硬策に舵を切りました。
米軍介入はイラク北部で一定の成果
こうした米軍の介入には賛否両論あるでしょうが、では、その軍事的な実効性はどうなのでしょうか? 結論からいえば、イラク北部のクルド自治区方面では、アメリカとの関係の深いクルド人部隊(ペシュメルガ)との連携が功を奏し、一定の成果がありました。イスラム国の進撃は食い止められ、ペシュメルガがイスラム国部隊をある程度は押し返しています。いったんはイスラム国の手に落ちたイラク最大のモスル・ダムも、ペシュメルガが掌握しました。 ただ、イラク国軍が戦う中部戦線では、あまり成果が出ていません。この差はなによりも、イスラム国と戦う現地の地上部隊の米軍との連携レベルおよび、士気の違いにあります。 ペシュメルガは米軍とうまく連携をとっているうえ、自分たちのテリトリーを防衛するという意識が高い。ところが、イラク中部を守る国軍では、イスラム国を恐れて敵前逃亡する兵士が続出しています。イランとの関係の深いイラク政府は、クルド勢力と比べて、アメリカとの連携が不充分だということもあります。