米軍の「イスラム国」空爆作戦は効果あるのか /軍事ジャーナリスト・黒井文太郎氏
シリアではイスラム国の勢い止められず
シリアでも、現時点でイスラム国の勢いを止めることはできていません。それどころか、イスラム国は現在、同国北部のトルコ国境まで侵攻しています。 空爆では、第一撃で既知の拠点や施設を破壊することは容易でも、隠れて移動する部隊を捉えることは困難です。また、一般住民の中に紛れてしまった部隊は、民間人の巻き添えリスクが高くなり、攻撃がしづらくなります。アメリカとしては、民間人の巻き添えで批判を受けることをもっとも警戒していますから、どうしても空爆は慎重になります。 空爆は、たとえばイスラム国の資金源である石油施設を破壊するなど、それなりにイスラム国に打撃を与えてはいますが、それだけではこのように限界があります。結局、空爆と同時に地上部隊の作戦も必要なのですが、シリアでは米軍と連携できる強力な現地部隊がありません。イラク北部では米軍と連携がとれた強力なペシュメルガがいましたが、シリア北部の反政府軍は、弱小な諸派がバラバラに活動しているのが実態です。
地上戦力をどう投入していくかの局面に
今後の展開は、空爆でも勢いが止まらないイスラム国に対処するため、地上戦力をどう投入していくかという局面になります。 オバマ大統領は現在に至るも、シリアへの地上軍派遣は否定しています。アメリカ国内では「地上軍派遣も必要だ」との声が徐々に高まっていますが、世論や議会の動向はまだ流動的なものです。 イスラム国がトルコ国境まで迫り、18万人もの難民がトルコに逃げ込んだことを受け、現在、トルコが地上部隊のシリアへの越境を準備しています。トルコはNATO主導の有志連合のかたちで、シリア国内に緩衝地帯を設置したい意向ですが、主要国の足並みは揃っていません。 トルコ軍を主力とする有志連合がシリアに入れば、イスラム国の進撃をある程度抑えることは可能ですが、トルコ軍にしても、シリア奥深くまで進撃してイスラム国を蹴散らすということは考えていないでしょう。 空爆は今後も継続されますが、決め手がないままに長期戦に突入ということになりそうです。