和田誠の名言「アイデアが二つ浮かんだ時…」【本と名言365】
これまでになかった手法で新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。谷川俊太郎や村上春樹、丸谷才一、そして映画や演劇の書籍等、多彩な装丁を数多く手掛けたイラストレーター、グラフィックデザイナーの和田誠。彼が装丁の仕事をする上で語った姿勢とは。 【フォトギャラリーを見る】 アイデアが二つ浮かんだ時どちらにするか、そんなことは自分で決めたい たばこ「ハイライト」のデザインや「週刊文春」の表紙イラストレーション、谷川俊太郎との絵本や星新一、丸谷才一など数多くの作家の挿絵や装丁などで知られるイラストレーターでありグラフィックデザイナーの和田誠。仕事の幅は非常に広く、映画監督を務めたり、洒脱なエッセイを執筆したり、作詞・作曲等、いろんな分野の仕事を面白がった。 様々な仕事を手掛けた和田だが、映画と本の仕事は特に多く、2011年には世田谷文学館で「書物と映画」という和田が手掛けた数多くの仕事から厳選した展示も開催された。 『装丁物語』では、和田が歴代で手掛けた書物を例に「谷川俊太郎さんの本」「丸谷才一さんの本」「映画の本の装丁」「つかこうへいさんの本」「村上春樹さんの本」等、数多くの書籍を手掛けた著者の本の装丁を考えた時のエピソードから、「文字について」「紙の話」「画材について」等、絵を描く時のテクニックやデザイン、印刷にまつわるかなりテクニカルな話まで、装丁にまつわる考え方を惜しげもなく披露している。 例えば、『しのはきょろきょろ』という谷川俊太郎の絵本。しのという女の子がデパートで冒険をする物語の装丁を担当した時は、実際に伊勢丹に行きスケッチをしたり、結婚前で自身には子どもがいなかったので友人で写真家の立木義浩の娘をスケッチしに行ったりしたという。また、『谷川俊太郎の33の質問』という本の装丁では、様々な抽象図形が一直線に並んだ絵を描いたが、その面をすべて数えると33になるようにしていた。 映画の本の装丁も数多く手掛けた。中学の頃から映画を見ていた和田は、映画には相当詳しい。それが装丁の発想にも役立った。映画評論家の対談集の表紙には、対談に登場する映画の1シーンをイラスト化したり、カバーの絵に古い映画のポスターをいくつも描いたり。もともと和田は似顔絵を得意としているが、映画の本の装丁に登場する映画監督や俳優の似顔絵は格別な味わいがあった。 イラストレーションや似顔絵、描き文字には和田の特徴が光るが、装丁を手掛ける際は、写真や書体でのデザインも多数手掛けた。一見すると和田誠の装丁だとわからないものも多いが、「ぼくが手掛けた装丁に見えるということよりも、その書物に合った装丁をするということの方が大切だと思う」と述べる。グラフィックデザイナーという肩書きを好んでいた和田らしい発言だ。 装丁の仕事が好きで、一冊一冊に様々なアイデアを盛り込み、カバー、表紙、本文、挿画を考えて、多彩な感覚に訴える書物をつくる和田誠。今回の言葉には、和田の仕事に挑む際の姿勢がよく表れている。編集者から複数案出してほしいと依頼された時は広告の仕事でも断るというエピソードだ。 だってレストランに入って「カレーライスとハヤシライスと両方作ってくれ、うまそうな方を食うから」なんて誰も言わないでしょ。物を作るというのはそんなものじゃない。 (中略) アイデアが二つ浮かんだ時どちらにするか、そんなことは自分で決めたいとぼくは思っています。迷うこともあるけれど、それでも決定するのは自分でありたい。(中略)第一、二つ答を出すんじゃあ力が分散してしまって、どちらもバツになりかねません。それよりもギリギリ考えて、これっきゃないという答を一つ出したい。 イラストやデザインの仕事をする方は激しく同意する方もいるだろう。厳しい口調に読めるが、相手の意見を全く聞かないわけではない。予期せぬ球を投げられることはむしろ喜んで迎え撃つ姿勢で、装丁に挑む。この本を読んでいると、本が本当に好きで、目の前に来たまだ本という形を持たない原稿に対し、楽しみながらアイデアを振り絞っている和田さんの姿が浮かんでくるようだ。
わだ・まこと
1936年大阪生まれ。多摩美術大学図案科(現・グラフィックデザイン学科)を卒業後、広告デザイン会社ライトパブリシティに入社。1968年に独立し、イラストレーター、グラフィックデザイナーとしてだけでなく、映画監督、エッセイ、作詞・作曲など幅広い分野で活躍した。
photo_Yuki Sonoyama text_Keiko Kamijo illustration_Yoshifumi ...