以前の顔をもう一回取り戻したかった――エレカシ宮本浩次、「男」からジェンダーレスへ
1988年にエレファントカシマシのボーカリストとしてデビューしてから32年。長いキャリアのなかで、現在ソロとして歌番組への露出が増えている宮本浩次(54)。初のソロアルバムをリリースしたのは2020年、53歳でのこと。ソロは「恐怖ですよ」と語る宮本が、それでも足を踏み出した。そして、かつてエレカシで「男」を歌いあげていた宮本はなぜ今、ジェンダーレスな服に身を包み、女性歌手の楽曲をカバーするのか。エレカシ宮本が語る「男」への反動とは。(取材・文:兵庫慎司/撮影:佐々木康太/文責:Yahoo!ニュース 特集編集部)
ソロは恐怖、でも時間がなくなった
「エレファントカシマシがバンドだったのは最初の3枚のアルバムだけ」とか、「ひとりでアルバムを作っている、実質はソロと変わらない」などと公言する時期を、これまで何度も経てきたのが宮本浩次である。しかし、それでも、ソロ名義ではなくバンドで活動を続けてきた男が、ついにそこに踏み出したのが今である。 「この間、亡くなった偉大なるデザイナー、高田賢三のドキュメンタリーをテレビで見たんです。思い立って兵庫県から東京に出てきて、それからまた思い立ってパリに行くんだよね。偉大な人って、やっぱりその行動力なんだな、と思ったもん。俺、思い立っても行かないし、答えがわかっていても、恐怖から目をそらす。大変なことから目をそらして生きてきたと思うんだ」
宮本にとってのソロ活動とは、そんなに恐ろしいものだったのだろうか。 「恐怖ですよ。だって俺は、自分のことをプロデュースできないもん、椎名林檎や横山健みたいに。俺は芸人だし。バンドのリーダーの時は、まだバンドのリーダーの顔でいられるけど、ソロになるとそうはいかなくなるしさ」 それでもソロに踏み切れたのはなぜかと問うと、「時間がないから」という答えが返ってきた。 「人間だったら、大なり小なりいろいろあるじゃない? でも、年をとってくると、若い時よりもそれを跳ね返す力が……筋肉痛が治らなくなるのと一緒で、心もなかなか戻りにくくなんのよ。誰もが肉体と精神を使って生きていて、最後は死ぬんだけど、その過程で『今しかない』っていう時がやってきたんだよ。もう時間がない、このままだと、いつまで経っても歌手の宮本浩次になれない。俺はもう疲れちゃってるし、メンバーもみんな疲れてる。持ちこたえられなくなっちゃったんだよね」 「だから俺は、2016年の時点で、(当時の所属事務所の)社長にも、改めて言ったし。30周年(2018年)の活動が終わったら、バンドはいったんとめる、ソロをやると。それで最後の力を振り絞って、苦しいけど4人で一生懸命やりましたよ、それで紅白にまで出たから、もう喜びもひとしおだった。あのままやってたら死ぬんじゃないか、っていうぐらいのところで、ようやくソロに行けた」