以前の顔をもう一回取り戻したかった――エレカシ宮本浩次、「男」からジェンダーレスへ
エレカシ宮本が語る「男」への反動
エレファントカシマシには、「花男」「珍奇男」「男は行く」など、タイトルに「男」がつく曲が15曲もある。「ファイティングマン」も含めると、16曲だ。ただし、2012年の「涙を流す男」以降、タイトルに「男」ありの曲は、書かれていない。そして2020年に女性シンガーの曲だけをカバーした『ROMANCE』をリリース、というのは、宮本の中のなんらかの変化を表しているようにも思える。 「10代の頃、森鴎外とか夏目漱石とか、優れた作家から、『男たるものとはなんだ?』と学んで、一生懸命、研究していたつもりだったの。太宰治も芥川龍之介もかっこいいと思って追いかけていた。メンバーも自分も奮い立たせるように、男たるものどう生きていくべきか、っていう道筋をエレファントカシマシで描いてきた。でも、『今宵の月のように』のヒットや、30周年の活動の成功で、居場所ができたからね。そういう自信に伴って、『男らしさとは』みたいなことから、『本来の自分とは』っていう旅に、移り変わっていってるんじゃないか、と思っているのね。イヴ・サンローランの服とかさ、やっぱりジェンダーレスというか、性を超える、みたいなのがあるわけよ。イヴ・サンローランと、エディ・スリマンの洋服、ほんとに私は好きで着てる。エレファントカシマシの30周年のツアーの時も、私、エディ・スリマンのジャケットとパンツで出ているわけ。それって何か象徴的というか、『いきがるのが男らしさじゃない』みたいなところにね、大人になってようやく気づいて」
そういえば、宮本が初めて人の曲をカバーしたのは、エレファントカシマシの2008年のアルバム『STARTING OVER』に収録した、荒井由実の「翳りゆく部屋」である。そのあたりは、歌を好きだった母親の影響も大きいと思う、と宮本は言う。 「母親がいろんな歌を、もうしょっちゅう歌ってんだよね。それが『こんにちは赤ちゃん』とか、女の人の歌だった。母親の影響はモロに受けてるから、むしろ自然な感じもする。だから『ROMANCE』ってアルバムは、0歳からのおふくろとの思い出、両親と兄貴との4人家族でいた時の、少年の自分がまさしくそこにいる、っていうものに結果的になっていて。それがやりたかったんじゃない? バンドっていうのは、子どもから少年になって、青年に向かう時期の……大人の顔なんだよ。『ROMANCE』で、それ以前の顔をもう一回取り戻したかったんだ、と思うんだよね。『本当の自分って何だろう?』みたいなの、あるじゃない? だからまさに、今しかないタイミングだったんだと思う」
宮本浩次(みやもと・ひろじ) 1966年生まれ。1988年、エレファントカシマシのボーカリストとしてデビュー。2018年、椎名林檎の「獣ゆく細道」、東京スカパラダイスオーケストラの「明日以外すべて燃やせ」にゲストボーカルとして参加。2019年2月、配信シングル「冬の花」で本格的にソロ活動をスタート。2020年、初のソロアルバム『宮本、独歩。』をリリース。