以前の顔をもう一回取り戻したかった――エレカシ宮本浩次、「男」からジェンダーレスへ
俺は何もしてない、時代背景のなせる業
そして、30周年の活動後、バンドはいったんストップ。ただ、この段階では、少しオフをとって、旅行でもしたあとに、自分のペースでソロ作品の制作に入ろうと考えていたという。つまり、バンド以上に華やかで激しい、現在のような活動をする、というビジョンは持っていなかったようだ。 「最初のソロライブは、リキッドルームだったんですよ(2019年6月12日)。誕生日にさ、ひとりで弾き語りで、800人くらい集まったら黒字にはなるかな、とか思っていて。ほんとに小さく考えてたの。そしたら谷中(敦)さんが『スカパラ(東京スカパラダイスオーケストラ)で歌いませんか?』と。そんなの願ってもないからさ、もう二つ返事で受けたら、その1週間後に椎名林檎さんから、『一緒に歌いませんか?』っていう話が来た。それで、2018年9月からレコーディングをしたわけ。で、林檎さんと『獣ゆく細道』のミュージックビデオを撮って、11月には『ミュージックステーション』にも一緒に出て、同じ月に今度はスカパラと『明日以外すべて燃やせ』で出た。さらに関西テレビのプロデューサーの方から話があって、作ったのが『冬の花』(ドラマ『後妻業』主題歌)。で、『ソフトバンクのCMに出てくれない?』って話と、『月桂冠』のCMに出演し曲も提供するっていう話も、ほぼ同時に来た。だから、何もしてないんですよ、俺は。なぜか全部来たの」
2020年11月18日にリリースされた、昭和の女性シンガーの名曲を中心としたカバーアルバム『ROMANCE』は、ビルボードやオリコンのランキングでも1位を獲得。ヒットアルバムとなった背景には、現在の社会状況もあるのではないか、と宮本は言う。 「コロナ禍の中で、みんな音楽に向き合うことを求めていたというか、ここでカバーしているような、ぬくもりのある古い曲を聴く耳をみんな持っていたんじゃないかと思う。世間が東京オリンピック一色になっている中で出したら、こういうふうにはなっていないんじゃないかと……まあ、俺は預言者じゃないから、わかんないけど。でも、こんなにテレビで歌うことになったのも、オリンピックの中継がなくなって、音楽特番が増えたからだし。そういう時代背景のなせる業としか思えないよね」 テレビの現場でも、オリンピックの空白を埋めるかのように、制作に懸けるスタッフの目の色が違うと宮本は語る。そうしたテレビ出演は、コロナ禍でライブ活動を行えないだけに、人前でのパフォーマンスの場としてとても大事だという。 「『宮本、独歩。』のツアー(2020年3~7月)のために集まってくれたメンバーと、ものすごい練習して、衣装も決めて、グッズも作って、それで全然できなかったでしょ。フェスもなくなってさ。だから、テレビでみんなの前で歌うのが、唯一の楽しみなの。ものすごい真剣にやりますよ、それは。コンサートの時と同じように、毎回すごい練習して。出演時間も夕方だったりして、それもいいんだよね、『売り出し中!』って感じで。ソロは、ほんとに俺は新人だと思って出ていくから。だから、一生懸命やるよね」