デンマークの地方都市を舞台にしたアートの祭典が人々にもたらすものとは?
例えばアップサイクリングの展示では、廃棄された家電や金属などを使用し、動きのある作品で50年代後半から独自の世界を切り開いたジャン・ティンゲリーを紹介すると共に、その流れを汲む現代の作品を展示している。ペットボトルやプラスチックチューブなど身近な素材で作られた、風力で動くオブジェはオランダの彫刻家、テオ・ヤンセンによる作品。韓国の女性アーティスト、スイ・パークは結束バンドのみで作り上げたインスタレーションで空想的な世界観を繰り広げた。
また、トラベルの展示では30年代からパリで活動したデンマーク出身の女性アーティスト、ソーニャ=フェアロブ・マンコバを採り上げ、夫であるアーティスト、アーネスト・マンコバの出身地である南アフリカの影響をたぶんに受けたであろう、前衛的で抽象的な彫刻作品を並べる一方で、 世界的に活躍するオラファー・エリアソンが出身地であるアイスランドで消え行く氷河を記録したビデオ作品を展示。空間だけでなく時間を旅する気分が味わえる構成だ。
前述のカルチャーホテルは若手の女性アーティストたちによるサイトスペシフィックな作品で埋め尽くされた。モチーフとなるのはそれぞれヘアニングにゆかりのある素材やもの。イダ・ラセッリは収集した周辺の粘土と泥灰岩を加工し、乾燥させ、焼いた上で顔料に粉砕し、キャンバスに描いた。アヤローゼ・スティネー・ソルビルドはこの地の主産業である織物業に欠かせない羊毛と、養蜂業も盛んなことから蜜蝋を使った作品を発表している。
美術館やホテルの外に出てみれば、キュレーター、ハンス=ウルリッヒ・オブリストの呼びかけで集まったアーティストたちによる“ユアセルフ”の言葉のアートがそこここに待ち受けており、それは森の中まで続いていく。
ひとりの起業家から始まったアートによる揺さぶりは、70年ほどの時を経てもなお、ひとつの地方都市で風を起こし続けている。2021年に行われた前回の祭典では、コロナの影響もあったが4ヶ月ほどの開催期間でおよそ2万名が来場した。この数字は世界各地で先行するビエンナーレやトリエンナーレに比べれば取るに足らないものかもしれない。けれど、「アートで人々を揺さぶり続けなければならない」と、ダムガードなら言うだろう。