バラを敷きつめ武器を溶かして…「弱者の物語」をアートで伝える彫刻家ドリス・サルセド【世界文化賞】
視覚を超えて:チームと共に生み出すアート
サルセドさんは視覚障害を持ちながら、約40人のチームと共に作品を制作しています。目が不自由なため、建築家やエンジニアなどの専門家と協力し、大規模な作品を作り上げています。チームは一丸となり、難しい目標に挑戦しています。
草の根から生まれる希望
―――広島でも展示された『プレガリア・ムーダ』の着想は? サルセドさん: コロンビアでは、軍の圧力によりプライドウィーク(※)中に多くの若者が命を落としました。その犠牲者たちに敬意を表し、私は棺の形をした作品を作りました。この作品は死を象徴しながらも、“新たな命の誕生”を意味しています。 展示では、2台のテーブルに草が生えた木の板を置き、草の成長を通じて“困難な状況でも生き延びる力”を表現しています。また、回転するテーブルを使って“軍による暴力の終息”を示しています。この作品を通じて、内戦が兄弟同士の殺し合いであり、無意味であることを伝えたかったのです。 ※プライドウィーク:LGBTQ+コミュニティの権利を祝う週間
哀しみのバラ:傷ついた命
バラの花びらを使った作品『ア・フロール・デ・ピエル』は、ある看護師の悲劇的な運命を描いています。貧しい環境から看護師を目指して努力し、病人を助けていた彼女は、武装集団に連れ去られ、拷問を受けて命を奪われました。 サルセドさんは彼女の生涯を称え、その残虐な拷問にどう向き合うべきかを考えた結果、壊れやすく繊細なバラの花びらを使うことにしました。この作品は、拷問の残虐さを表現し、拷問に関する議論を呼びかけています。痛みを与えること自体が拷問であるということを訴え、コロンビアでの悲劇を世界に伝えようとしています。 ―――コロンビアの貧困と暴力の中で、芸術はどんな役割を果たしていますか?また、アーティストとして活動する上での困難は何ですか? サルセドさん: 私は、芸術が世界にとって欠かせないものだと考えています。政治的暴力や貧困は、世界を理解するために重要な問題です。植民地主義は平等を唱えながら、大きな不平等を生んでいます。 私たちは成功の裏に隠れた物語を知っており、貧困や植民地化の経験が重要なテーマになります。自分たちの物語を語り、過去の歴史を伝えることが私たちの使命です。失われた物語を引き継ぎ、過去と現在をつなげる歴史を再構築し、その不公平を訴えることが大切です。 現在、“罰せられない犯罪”をテーマに、世界の紛争地で起きている“意図的な破壊”によって命を脅かされる人々の物語を、“髪”を使って表現する作品を製作中だというサルセドさん。 日本では何を感じて、何を思うのだろうか。 「第35回高松宮殿下記念世界文化賞」の授賞式は11月19日、東京都内で開催される。 (サムネイル:スタジオでスタッフと制作を進めるドリス・サルセドさん(右) コロンビア・ボゴタ ©日本美術協会/産経新聞)
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